水炎の腐れ縁
Author : 那岐蓮奈



語り : リリック

柔らかい朝日が差し込み、小鳥のさえずりが聞こえ始めたころ…。

ぼくは、軽く伸びをしてそっと布団を抜け出した。
隣で寝ているクララたちを起こさないように、忍び足で部屋を出る。

朝食を作るのは、補佐竜であるぼくの役目。
もともと料理は好きな方だったので、いつしか自然とそういう構図になっていた。
昨夜遅くに寄り合いから帰ってきたエレのために、何か胃に優しいものを作ろっと。
きっとまた、メリアさんと際限なく飲んできただろうから(^^;)。

冷蔵庫を開け、ストックを確認する。
卵と、葱と、椎茸と、鮭フレーク…うん、これなら、栄養バランスのとれたおじやが作れるね。
深鍋に水を張ろうと、作り置きしておいた 「 おいしい水 」 の入った水差しを取り出す。
…あれ?もう残り少ないや。昨日エレが酔い覚ましに飲んだのかな?
まいったな、井戸に汲みにいかなきゃ。
「おいしい水」は、水道水よりも井戸水で作った方がずっとおいしいんだ。
最近はぼくも作れるようになってきたので(^-^)、エレをわざわざ起こさなくても大丈夫なんだよね。

中くらいの水瓶を持って、外に出る。
このところ気温もグッと下がって、葉っぱもだいぶ紅く色づいてきた。
秋の朝は、格別に空が澄んでいてとても気持ちがいいんだよね。
ぼくは、思いきり深呼吸をして新鮮な空気を堪能してから、井戸の方へと足を向けた。
井戸は川の向こう側。いつものように橋を渡ろうと何気なく水面を見てみたら…

「あれ、メオ? キミがこんな朝早くに訊ねて来るなんて、めずらし…」
…って、あ、あれ??
てっきり後ろに火竜のメオが立っているのかと振り返ったのに、誰もいない…。
もう一度、橋の下をのぞく。
燃えるような赤い髪のメオが水面に映っている。
振り返る。
…誰もいない…。

…。……。…………。
右手上げて♪ 右手下げないで、左手上げて〜♪

水面には、両手を上げたメオの姿…。
これって、これって…もしかして…??(||▽||)

「…う…うわぁぁぁぁぁぁぁっ!」
…コーセルテルの山に、一匹の少年竜の哀れな叫びがこだました…。



語り : メオ

ちょうどその頃、火竜術士の家では…。

「うぎゃぁぁぁぁぁっっっ!!」
…ここでも、一匹の少年竜の悲痛な叫びが秋の大気を揺るがしていた。

「…なっ…ななっ…」
寝ぼけた頭が一気に覚醒する。
鏡に映っているのは、まぎれもなくリリック…本来なら、ここにいるハズのないヤツ。
水竜特有の水色の長い髪が、悲しいくらいキレイに朝日を受けてキラキラしていた…。

これは悪夢だ。オレはまだ本当は布団にくるまっていて、起きている夢を見ているんだっ。
思わず、右の頬を思いっきりツネってみる。
「いっって!!」

…。……。…………。
…夢、じゃねぇ…。
背筋に、冷たいモノが伝う。

思わず自分のじゃない己の体を抱きしめて、あまりの感触の違いにその場にヘタレ込みそうになる。
日々の鍛錬で鍛え上げたオレの努力の結晶 ( ※ 締まった上腕筋や腹筋など ) が、
すっかり華奢なそれにとって代わってやがる(泣)。

一体、なんでこんなコトになっちまったんだ??
何か原因があるハズ…よ〜く落ち着いて考えろ、オレ。
真っ白になりかかっていた脳に鞭打って、昨夜のコトを思い出してみた。

えぇと、たしか零時を回った頃に、ヘベレケになったオヤジがエレさんに抱えられて
帰ってきたんだよな。
で、玄関に入るなり奥さんの写真にひっつくのをオレが無理やり引っぺがして、寝室に押し込んで…。
あの時点では、まだオレの姿のまんまだったんだ。
それから、ちょっと小腹がすいちまったからオヤジの持ってきた果物を1コ食…べ…って、
コレかぁっっ!?

くっそ〜、果物でこんな妙〜なコトできるのはアイツらぐらいしかいねぇ!!
見つけたらタダじゃおかねぇぞっ!

オレは勢いよく外に飛び出すと、蛇行した道を無視して一直線に思い当たるトコロへ
すっ飛んでいった。

*****************

「…ラルカ、今の、リリックよね…」
私用でミリュウさんの家に向かう途中の道で、メリア母さんがちょっと呆然としながら口を開いた。
今の、というのは、きっとつい今しがた目の前を「ロイーーっっ!!」 と叫びながらすごい勢いで
道ならぬ道に突っ込んでいった水色の物体のコトね。
暗竜術でサーチしてみる。見えたのは、森の中を鬼のような形相で掻き入っている水の補佐竜。
間違いなく、リリックだわ。…ちょっといつもと様子が違うけど。
「ええ…そうみたい」
答えると、メリア母さんは小首を傾げた。
「何故、道を通らずに茂みの中を突っ切っていったのかしら?」
ん〜…。
「…そういうお年頃、なのかな…」
母さんはまた小首を傾げたけど、 「そういうモノかしらね〜」 と言うと、また歩き始めた。
リリック、キャラを趣旨替えしたのかな…あとで、ユイシィに聞いてみよ…。

( …その後しばらく、リリックはラルカとユイシィに奇異な目で見られるハメになる… )



語り : ロイ

「おい、ロイ」

いい心地で眠っていたぼくを、カディオが揺さぶり起こす。
…もうちょっと寝かせてよぉ。
昨日も夜中に起こされて、たまったもんじゃない…。

「ロイ、起きろ。ここに入れておいた実、何処へやったんだ?」

ん〜…?
なおも揺さぶられ、仕方なしに重い瞼を少し上げる。
眠い視界に入ってきたのは、眉間にしわを寄せているカディオと心配顔のノイ、そして空っぽの
籐カゴ。

ぼくはしばらくボーっとそのカゴを見つめながら、昨夜のコトを思い出していた。
あぁ、それね…。ぼくが、夜中起こされるハメになった元凶。

「あげたよ。っていうか、正確には持ってかれた…昨日、家に乗り込んできたエレさんに」

おかげで、その後すっかり目が覚めちゃってしばらく眠れなかったんだから。
もう、エレさんお酒が入ると人が変わったようになってしまうからなぁ〜。
カディオが帰ってると思って来たらしいんだけど、まだ着いてないコトがわかったらぼくのコト無理矢理
起こして実のありかを聞くんだもん。
ノイも隣の部屋で寝てたのに、何でぼくの方を起こすかなぁ…。

「…なんだと?エレが8コ全部?!」

カディオの顔が青ざめる。
何だよ、そんなに心配しなくても大丈夫だって。

「大丈夫だよ。エレさんアルコール既に入ってたし、お酒に全部使うって言ってたもん」

そう、エレさんが持っていったのは、ぼくとノイで作った不思議な力のある実。
でもそれは、アルコールが入ってる人とお酒に使う分には全く問題ないんだ。
むしろお酒に加えると、何ともまろやかな味わいになる酵素を出す。
エレさんはそれが目当てで持っていったんだと思う。
どうやら外ではイフロフさんとメリアさんが待っていたようだったから、あの後3人で
随分飲んだんじゃないかな?
おいしいお酒が飲めたって、喜んでもらえたと思うんだけど…。

「…まぁ、あの飲んべぇ3人組なら、ちゃんと全部酒に使ったかもしれないが…」

そう言いながらも、カディオはとりあえずその3人の様子を見に行ってくると出かける支度をし始めた。
もう、心配性だなぁ。だから、実年齢よりも老けて見られるんだよ。

「あれ?」

ふと窓の外を見たノイが、大きな目を更に丸くして驚きの声をあげた。

「あれ、リリックじゃない?…何だか、すごい形相してこっちに走ってくるよ(-▽-;)」

リリックがすごい形相?それはまたレアなものを…。
ぼくもノイと同じ方向を見やる。
……?誰もいないじゃないか。
と、思った刹那。

バアァァァンっっ!!
もの凄い勢いで玄関のドアが開け放たれたかと思うと、たしかに鬼のような形相したリリックが
つかつかとこっちへ入ってくる。

「おはよう、リリック(^^;)」

ノイが、圧倒されながらもとりあえず挨拶する。
リリックは女の子大好きだからなぁ。
きっと、コロッといつものにぱ顔になって、「やぁ、ノイ。今日もいい天気だね(^^)」
とか言うんだ…って、あ、あれ?
あのリリックがノイの前を素通り…い”?!

ごんっっ!!

いっっったぁ〜!リ、リリックが、いきなりぼくの頭をゲンコツで殴った?!
カディオとノイが、何が何だかわからないといった顔で固まっている。
ぼくもあまりのコトに言葉が詰まった。

「〜〜てめぇ、ロイ!!早く元に戻しやがれっっ」

…てめぇ?……やがれ??
この怒り方、粗野な怒声…これじゃ、まるで…。
とにかく何か言わなきゃと顔をあげたら、カディオの後ろにメオの姿が見えた。

「お、おはよう、メオ…( ▽ ;)」

混乱しながらも、ノイがメオに何とか挨拶したその時。

「あ、ノイ!聞いてよぉ、もう散々だったんだからぁ〜(;_;)」

メオが、何とも情けない声でノイに泣きついた。

…。……。…………。
ひぃぃっ!!
も、もしやこれは…っ

「げっ!オレがいるっっ」
リリックがメオを指差して叫んだ。

「あーっ!ぼくの偽者っっ」
メオがリリックを見て後ずさる。

…しばしの沈黙の後、カディオが世にも恐ろしいことをため息混じりに言った。

「…どうやら、リリックはメオに、メオはリリックになっちまってるらしいな…」
うわぁぁっ、やっぱりぃ〜(T▽T)!



語り : リリック

世にも珍しい面々が、思いつめた表情で顔を付き合わせるコトとなった。

「…つまり、エレさんたちはいつもより早く酔いつぶれ、余った果実を彼女とイフロフさんが持って
帰ったというワケなのかい?」

確認するロイに、ぼくは泣きそうな顔で弱々しく頷いた。
昨日、エレが泥酔して帰って来て 「 一緒に果物食べよ〜。おいしいよぉ〜vv 」 ってなかなか寝ようと
しなかったから、ぼくは仕方なくエレの持って帰ってきた果物を剥いて一緒に食べたのだ。
それがまさかこんな事態になるなんて…。
アルコールが入っている人には何ともないというコトだけがせめてもの救いだけど、素面で食べた
ぼくやメオには、しっかり作用したみたいだ。

カディオさんの話によると、この実はあらゆるものをより近しい反対の属性に変えてしまう力が
あるらしい。
たとえば、水の属性は炎の属性に。
だから、同年齢同士でぼく(水)がメオ(炎)になって、その反対もまたメオに起こったというワケ
なんだね…
なんてハタ迷惑なぁ〜〜〜(T▽T)。

「相当飲んでたんだな、エレ…」
カディオさんが今日何度目かの深いため息をつく。

どうしよぉ〜このままずっとメオの姿だったら、ジェンやラルカやユイシィにどんな顔してこれから
会えばいいと言うのさ??

「元に戻れる方法はねぇのかよ?」

ぼくの姿をしたメオが、苛立たしげに言う。
中に入っているのがメオだとわかってはいても、自分の姿でこういう態度や話し方をされると何だか
すっごく変で気持ち悪い。
メオも今のぼくの姿を見て似たような感覚に陥ってるんだろうなぁ。

「…ないコトもないんだけど…」

ノイが、歯切れの悪い言い方をする。
何でそんな顔をするんだい?キミは笑顔が一番素敵なのに…。
ノイの手をとってそう言いたかったのに、たまたま前にあった鏡の中の自分を見て慌てて
思いとどまる。
…メオの姿じゃ、決まらないじゃないかぁ…(涙)。

「大丈夫だよ。きっと、一番最初にお酒に使ってるって。あれが最もお酒を美味しくするんだし…」

な、何?
まだ何かあるワケ??
無意識に体が身構える。メオも本能的に後ずさった。
ロイの 「 大丈夫 」 があまりアテにならないことは、ぼくもメオも経験的に知っているのだ。

ふとカディオさんが席を立ち、隣の部屋から何やら持って戻ってきた。
手には、湯のみが二つ。
その中には、香ばしい深緑のお茶が入っていた。一見、抹茶のようでとても美味しそうにも思える。
それが、ぼくとメオの前に置かれた。

「あの実…反転の実の毒を解毒できるのは、その葉を煎じた茶を飲む以外に策はないんだ」

飲まなければ、このまま…。
ノイとロイの言葉が引っかかるけど、ずっとメオのままでいるワケにはいかない。
ぼくは、手のひらに一生懸命 「 人 」 の字を何度も書いて心を落ち着かせようとした。

メオは決心が着いたのか、湯飲みを手に取るとそのまま目を瞑って一気に飲み干した。

「ど、どう…メオ?」
恐る恐る聞いてみる。

「ん…何ともな…っ?!」
振り返ったメオの髪が、一気に水色から紅へと変わり、手足もぐんっと日焼けして引き締まったそれに
変わり…
目の前には、正真正銘のメオが立っていた。

「やったーっ!!」
「戻ってる!」

歓喜の声が上がる。
何だ、大丈夫そうじゃないか。ほっ…(^_^;A)。

「さぁ、リリックも早く飲んで元に戻りなよ(^^)」
ロイに促されるまま、ぼくもお茶を口にする。
香ばしくてのど越しがいいので、難なく飲み干すことが出来た。
湯飲みを置くと、次第にぼくの髪も水色のそれに変わり始め…。

「あ!リリックも元に戻ったよっ」
ふぅ…良かったぁ〜。一時はどうなることかと思ったよ。

「やったな、リリック!」
メオが、喜びの余り勢いよく抱きついてきた。

…むにゅ。

「……?」
メオが、抱きついたまま固まってる。
もう、いい加減はなしてよ〜。ぼくはこれからノイと喜びを分かち合うんだからっっ。

腕を振り解こうとするぼくの頭上で、メオが一言。
「リリック、おまえ、妙〜に太ってないか??」

…はい?!

「いや、なんとなく柔らか…く…っっ?!」
メオの視線が、ぼくの首下の辺りで止まったまま完全に硬直してしまった。
失礼な、ぼくは太ってなんか…い、な…っ?!

「…う…うわぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「うぎゃあぁぁぁぁぁっ!!」
…本日3度目の叫びが2つ、仲良くハモッてコーセルテル中を駆け巡った…。



語り : カディオ

やっぱりな…。

予感は、嬉しくない方向に的中した。

「リ…リリリ…っ」
メオが 「 リリック 」 と言いたいようだが、あまりのショックに言語中枢のヒューズが
飛んでしまってるらしい。
無理もない…リリックは、< 女の子 > になっちまってるんだから。

「なんで?!どうしてぼくだけこんな姿に?!」
とうとうその場にペタっとヘタレ込んでしまったリリックに、俺は非情な事実を伝えなければ
ならないのか…。
気の毒だが、俺は意を決して重い口を開く。

「リリック…おまえ、昨日黄色の実の他に赤い実も食べなかったか?」
「赤い…実?食べたけど、それと何か関係があるの…?」

涙目で見上げてきたリリックに、眩暈がしそうになる。
…完っ璧に女の子だよなぁ…どうやってエレに説明すりゃいいんだ(-▽-;)?

「大ありだ。黄色の実はまだ熟しきれてない若いヤツで、アルコール成分に弱いうえ反転効能も
属性が入れ替わる程度のモノなのだが。熟れた赤い実は、アルコールにも耐性があり性別を
反転させる力があるんだ」

赤い実は、熟れているだけあって酒に使えば極上の味を楽しめる代物なのだが。
既にデキあがってて色の判別がつかなかったのか、後で楽しみに取っておいたのか。
どちらにせよ、エレが使わなかったためにソレを食うハメになっちまったとはな…。

「そ、そんなぁ〜(泣)。早く元に戻してよ、カディオさん」
「…ない」
「…え?」
「元に戻す方法は、ないんだ。自然に効能が消えるまで、一週間そのままで我慢してくれ」

リリックの顔が、ひきつったまま凍りついた。
すまん…運がなかったと、潔く腹をくくってくれ…。

「リ…リリック?…だいじょぶ、かい…??」

ロイが、気遣わしげにリリックの肩に手を添える。
途端、哀れな水の少年竜は固まったその姿勢のまま床にバタンっと倒れこんでしまった。

「わぁぁっ!リリック、しっかりしてぇ〜!!」
心の中で、リリックの不幸さ加減に同情せずにはいられなかった…。

( …その後一週間、リリックは同情しながらもニコニコ顔のエレにいろんなドレスやら着物やらを
 取っ替えひっ替え着せられた挙句、行く道々ではいろんな男竜に声をかけられるハメになった… )


水炎の腐れ縁(那岐蓮奈/2002年11月5日寄贈)

那岐蓮奈さん作、「メオと入れ替わった挙句、女の子になってしまったリリック」です。当同盟加入審査の対象作品でした。
この頃、会長のサイトに遊びに来てくださった那岐さんが掲示板に「リリックの受難話が好きで・・・」という意味のことを書かれて
いたのを見て、速攻で勧誘してしまいました(笑)。登場人物もメオ+木竜2人組と黄金の組み合わせ、文句なく同盟参加は
許可されたのでした(邪笑)。
なお、ここまで「ト書き」しか書いたことのなかった会長はこの作品にとても大きな影響を受けました。その結果は1年後、
合同誌の小説として実を結ぶことになります(邪笑)。

那岐蓮奈さん、ありがとうございます!!!