「夢を見たんだ」
開口一番、そんな事を言った。

「夢?それでどうして君がここへ来るのか、よくわからないな」
今日は竜術士の寄り合いの日で、場所はここ水竜家。そろそろ料理の仕込みも始めたいのに、こうして客人に時間をとられている。用件くらいさっさと語ってほしいのだが。
まっとうな疑問の声を完全に無視して、ロイは出された茶をすすりつつ独白を続けた。
「あまり良くない夢だったんだ。夜明け前に飛び起きてしまって、もう一度眠りにつくなんてとても考えられなかった」
思わず時計を見直す。午後のお茶の時間が近い――夜明け前の夢の話をしに来たのなら、この時間差は何なんだろう。
だが、ロイがあまりに深刻そうな顔色をしているので、その点を問うことは躊躇われた。かわりに話の続きをうながすことにした。
「それで?」
「夢にリリック、君が出てきた」
「なんだかもう嫌な予感がひしひしとするよ。できれば続きを話さずこのまま帰ってほしいんだけど」
「君は上機嫌で宴会の用意をしていた。だがそこに、なぜだかとても機嫌の良くないユイシィがやってきた」
渾身の願いもやっぱり無視された。
「ユイシィは何かの書きつけを君に見せて、それに書かれている事は真実かと問い質した。君がうろたえて口ごもっていると、ユイシィは納得したように頷いて、もっと不機嫌になって帰ってしまった」
何だそれは。ものすごく嫌な雰囲気じゃないか。
「それから竜術士たちがこの家に集まって、みんなで君に何かお説教を始めた。竜術士たちが帰ったあとで、君はエレさんに拳骨を喰らった」
「……確かに良くない夢だよ、僕にとってはね!わからないのは、無関係の君がどうして飛び起きて眠れなくなったのか、どうしてそれをわざわざ僕に話しにきたかってことさ。ただの夢じゃないか」
「続きがあるんだ」
ロイはまったく顔色を変えることなく、再び茶をすすった。
「飛び起きた僕は、居ても立ってもいられなくて……朝一番で暗竜の家に向かった」
「暗竜の?」
「そして、ラルカに頼んで日記を借りた。そこにはこれまでの君の失言の記録が、詳細とは言えないまでも正確に記されていた。僕はそれを一字一句あやまたず書き写した。さらに風竜の家にも寄って、ジェンの知る限りの同様の記憶を口述してもらい、それを筆記した。――二人は共に優れた記録者であり、記憶家だった。もちろん、覗き見の暗竜術と聞き耳の風竜術はおおいに有効だったと言える」
待て。
「内容は主にエレさんのこと、君がいかに女の子にだらしないかというものが多かった。それから、少ないながらも他の竜の――特に火竜の――悪口とか、竜術士たちに関する失言もいくつかあった。僕はそれらを各家ごとに分類筆写し、それぞれ封筒に収めて、折りよくやってきた郵便屋さんに遺漏のないよう託した」
ちょっと待て。
「さて、リリック。僕は君に尋ねたいことがある――」
ロイは真剣そのものの表情で、まっすぐに僕をみつめた。

「――君は、『正夢』というものを信じるか?」

「全部君がたくらんだことじゃないかあああああっっ!!」


その日コーセルテルの西の地に、友情に恵まれない水竜の長い長い悲鳴がこだましたとかしないとか。






正夢(ひだり/2006年3月20日寄贈)

ひだりさん作、リリック受難小ネタその5です。今回、受難同盟に加盟するに当たって新たに書き下ろし(!)していただき
ました。

自他共に認める「失言大王」であるリリック。確かに暗竜術の覗き見と風竜術の聞き耳をもってすれば、それこそ掃いて捨てる
ほどの失言の数々が集まろうというもの。
それにしても、普段イタズラばかり企んでいるようなキャラクターが真面目な顔をしたときは、本当に危険ですね(爆笑)。

ひだりさん、ありがとうございます!!!