ジェンブライド
 
(ある日の早朝。ミリュウの家のドアをそっとノックするリリック)
リリック:(小声で)ジェン。・・・ジェン、いるかい?
(しばらくしてドアを開けるジェン)
ジェン:はーい。・・・あ、リリックじゃない。どしたの、こんな朝早くに。
リリック:(慌てて)しーっ!・・・ミリュウさんは?
ジェン:師匠?まだ寝てるけど・・・
(リリックのやつれた様子気付いて驚くジェン)
ジェン:ってリリック!どうしたの、顔色悪いわよ?
リリック:(遠い目をして)はは・・・ちょっとね。
ジェン:ふうん。・・・もしかして、そのことで師匠に相談事?
リリック:いや、実は君に頼みたいことがあって来たんだ。
ジェン:あたしに?
リリック:うん。・・・ここじゃまずいからとりあえず場所を変えたいんだけど・・・。
ジェン:いいわよ。
(ミリュウの家から少し離れた林の中へ入る二人)
ジェン:ここならいいんじゃない?それで、頼み事って何?
リリック:・・・ジェン、君はエレがミリュウさんのことをどう思ってるか知ってる?
ジェン:えっと、・・・エレさんって師匠のこと好きなんでしょ?
リリック:そうさ。でも、いつまでたってもミリュウさんが自分の気持ちに気付いてくれないんで、
     エレはいつも悩んでるんだ。
ジェン:・・・うちの師匠、ニブいからなあ。
リリック:この前、モーリンさんの所で竜術士の寄り合いがあっただろ。その時また何か面白く
     ないことがあったらしくて、それ以来エレがふさぎこんでるんだ。
ジェン:・・・。
リリック:もちろん、他人の色恋沙汰に口を挟むほどぼくは野暮じゃないつもりだけど・・・その
     とばっちりが自分の身に降りかかってくるとなれば・・・
ジェン:・・・何かあったの?
(両手で顔を覆ってすすり泣くリリック)
リリック:エレが・・・エレが・・・毎晩お酒飲んで・・・
ジェン:え?
リリック:ぼく・・・もう耐えられないっ!
ジェン:・・・(汗)。
(ジェンにすがりつくリリック)
リリック:お願いっ、協力してよジェン!ミリュウさんに少しは気付いてもらわないと・・・
     ぼくは・・・ぼくは・・・(泣)。
ジェン:分かったわ、分かったから・・・離してっ!(汗)
(リリックを振りほどくジェン)
ジェン:・・・大体の事情は分かったわ。面白そうだから協力してあげる。
リリック:(顔を輝かせて)本当!?
ジェン:さすがに、うちの師匠もあのままじゃマズいと思うし。
リリック:あ・・・ありがとうジェン〜(泣)。
ジェン:それで、具体的にはどうするの?一筋縄では行かないと思うけど。
リリック:とりあえず、カディオさんに訊いてみようと思うんだ。「こういう作戦にはあの人が
     向いてる」ってタクトも言ってたし。
ジェン:名案ね。それじゃ、カディオさんのところへ行きましょ。
 
(ジェンの風竜術でカディオの家の前に降り立つ二人)
ジェン:カディオさーん。いませんか〜?
カディオ:おう、どうした二人して。・・・ひょっとしてデートか?
(ニヤニヤするカディオ、辺りを見回すリリック)
ジェン:もう、違います!今日は、リリックの・・・
リリック:(ジェンの口を押さえて)・・・あの二人はどこですか?
カディオ:あいつらなら畑のほうにいると思うが・・・。
リリック:ふーっ、良かった。
(手を離すリリック)
ジェン:・・・もうっ、何するのよ!
リリック:あの二人にこんな話を聞かれたら何されるか・・・身の破滅だよ。
ジェン:そう言えばそうかも。でも、そういうことは先に言っといてよね!
カディオ:何だなんだ、ただ事じゃなさそうだな。何かあったのか?
(事情を説明する二人)
リリック:・・・という訳なんです。何とかなりませんか?
カディオ:(腕組みして)うーん・・・あいつのは筋金入りだからなぁ。
リリック:そんなー(泣)。
カディオ:・・・しかし、手がない訳じゃない。確か明後日はイフロフの墓参りの日だったな・・・
     よし!今から俺はイフロフのところへ行ってくる。
ジェン:あたしたちは?
カディオ:お前さんたちはモーリンの所へ行って、あるものを借りてくるんだ。
(二人に何事かを耳打ちするカディオ。顔を輝かせるジェン、青くなるリリック)
ジェン:あたし、あれを見るのが夢だったんだ〜。
リリック:そんな・・・玉砕したらどうするんですか!
カディオ:大丈夫だ、心配はいらないさ。頼んだぞ。
ジェン:行こ、リリック。
リリック:ふ・・・不安だ・・・(泣)。
 
〜2日後〜
(エレの家の前に降り立つミリュウとジェン、出迎えるエレ、リリック、タクト)
エレ:お帰りなさい、ミリュウ。
ミリュウ:ただいまエレ、それにリリック君、タクト君。
エレ:お墓参りは無事終わったの?
ミリュウ:ああ、おかげさまでね。助かったよ。
(互いに目配せしあうジェン、リリック、タクト)
リリック:そうだ、もし良かったら帰る前にお茶を飲んでいきませんか?
ミリュウ:え?
ジェン:わぁ、賛成ー。師匠、そうしようよー。
ミリュウ:でも、今も子竜たちを預かってもらっているわけだし。あんまり長居するわけには・・・
リリック:(慌てて)大丈夫ですよ、僕が責任を持って面倒を見ておきますから。
ミリュウ:・・・それじゃ、ごちそうになろうかな。
ジェン:やったー。
リリック:それじゃあ、・・・ごゆっくり。
(家へ引っ込むリリック。お茶を淹れるエレ、席に着くミリュウ、ジェン、タクト)
ミリュウ:それにしても、リリック君はどうしたのかな?何だか顔色が悪いみたいだったけど。
エレ:・・・。
タクト:(あなたのせいですよ!
(心の中で毒づくタクト。はいったお茶を配るエレ)
エレ:・・・はい、どうぞ。
ミリュウ:ありがとう。・・・うーん、いい香りだ。
(タクトに目で合図を送るジェン)
ジェン:・・・おいしーい!師匠、やっぱりエレさんの淹れてくれるお茶が一番おいしいですよね!
ミリュウ:ははっ、そうだね。
エレ:(少し赤くなって)えっ・・・。
タクト:(よし、ナイスだジェン!)
ミリュウ:でも、マシェル君のお茶もおいしいな。二人とも水竜術が得意だからね。
エレ:(がっかりして)・・・。
ジェン:(あちゃー)
タクト:(これじゃ逆効果だ。仕方ない、作戦第2弾だ)
(ミリュウに墓参りの話題を振るタクト)
タクト:イフロフさん、何か言ってました?
ミリュウ:それがね、今日はどうも変な話ばかりしてたんだ。
タクト:・・・変?
ミリュウ:うん。自分が結婚したのは28の時だった、とか・・・
エレ:!!
(「結婚」という単語に思わずお茶を吹き出しそうになるエレ)
ミリュウ:交際期間は数年あったほうがいい、とも言ってたな。
タクト:・・・それで?(汗)
エレ:(真っ赤になって)・・・。
ミリュウ:最後にボクの歳を聞くんだ。「25です」って答えたら「カディオ、すまん・・・」だって。
     何でそこでカディオの名前が出て来たのかな?
エレ:(ため息をついて)・・・。
タクト:(イフロフさんじゃそれが精一杯か・・・。こうなったら・・・)
(ジェンに合図するタクト)
タクト:ちょっと失礼します。
(席を立つタクト、ジェン)
ミリュウ:あれ、どうしたんだろう二人とも。・・・今日はみんなどこか変じゃないか?
エレ:・・・。
(エレの顔色が悪いことに気が付くミリュウ)
ミリュウ:そう言えば君もだ、エレ。疲れてるんじゃないか?やっぱり子竜たちを預かって
     もらったからかな・・・。
エレ:(慌てて)い、いいえ、あなたのせいじゃないわ。最近少し調子が悪くて・・・今日もほとんど
   何も食べてないのよ。
ミリュウ:それは大変だね。カディオか誰かに診てもらったほうが・・・
エレ:私は大丈夫よ。・・・それよりミリュウ、私・・・
(勇気を振り絞ってミリュウに告白しようとするエレ。そこへタイミング悪く戻ってくる二人)
ミリュウ:エレ!あれ・・・。
エレ:え?
(振り返るエレ。ウエディングドレスを着たジェンを見る一同)
ジェン:どう師匠、似合ってるー?
ミリュウ:・・・ああ、とってもきれいだよジェンさん。
ジェン:ね、師匠、腕組んでー。
ミリュウ:いいよ。ははっ、まるで結婚式みたいだね。
エレ:一体、どこから・・・。
(あっけに取られるエレ、ミリュウに歩み寄るタクト)
タクト:ミリュウさん、あなたに好きな人はいないんですか?
ミリュウ:好きな人?・・・うーん、特に考えたことはないけど。
タクト:じゃあ、あなたのことを好きだっていう人がもしいたらどうします?
ミリュウ:ボクのことを?
タクト:・・・なぜエレさんがウエディングドレスを用意していたか、ちょっと考えてみてくれません
    か?
エレ:ちょっと、タクト!あれは別に私のじゃ・・・
(うろたえるエレ、構わず続けるタクト)
タクト:案外あなたのそばにも、あなたに言えない想いを胸に秘めている人がいるんですよ。
    ・・・気が付きませんか?
(エレの方を見やるタクト。エレの思いつめた表情にようやく気付くミリュウ)
ミリュウ:エレ・・・。まさか、君は・・・。
エレ:ミリュウ・・・、私・・・
ミリュウ:エレ、それ以上言わなくていい。・・・今まで君の気持ちに気付いてあげられなくて
     済まなかった。
エレ:ミリュウ・・・!
(感動するエレ)
ミリュウ:これからボクと食事でもどうだい?
エレ:・・・ええ!喜んで!
ミリュウ:よし、じゃあ決まりだ。ジェンさん、悪いけどあの子たちを連れて先に家へ帰っていて
     くれないかい?僕はエレを送っていくから。
ジェン:はい師匠!
ミリュウ:それじゃ行こうか、エレ。
(エレを連れて風竜術で去るミリュウ。家から出てくるリリック)
ジェン:やったー、大成功ー!!
タクト:ふう、何とかなった。リリック、良かったね。
リリック:ううっ・・・ありがとう。二人には何とお礼を言っていいか・・・(泣)。
ジェン:気にしないで。あたしはこれが着たかっただけだし。
タクト:・・・とりあえずここを片付けようか。
リリック:今日から久々に安心して眠れるなぁ・・・。
 
〜マシェルの家の前〜
(口論するエレとミリュウ)
エレ:よりによって、何でマシェルのところなのよ!
ミリュウ:え?いけなかったかな?
エレ:当たり前よ!二人きりだって・・・期待してたのに!
ミリュウ:だって、マシェル君はお料理上手いし。ボクが作るよりよっぽど・・・
エレ:ミ・・・ミリュウのバカーーーーーッ!!!
(泣きながら走り去るエレ、物音に気付いて家から出てくるマシェルと子竜たち)
ミリュウ:あ・・・あれ?
マシェル:兄さん、エレさん、いらっしゃい。・・・あれ?エレさんは?
ミリュウ:行っちゃった。ろくに食事もしてないって言ってたから、マシェル君の手料理で元気に
     なってもらおうと思ったんだけど・・・何かマズいこと言っちゃったのかな?
ナータ:・・・(汗)。
マータ:(肩をすくめて)・・・。
 
〜翌朝、エレの家〜
(ベッドに横たわるリリック、介抱するタクト)
タクト:おい、大丈夫か?
リリック:う・・・うん。何・・・とか・・・ね。
タクト:何だってこんな・・・。昨日の夜、一体何があったのさ?
リリック:・・・。
(無言で大粒の涙をこぼすリリック)
タクト:う・・・(汗)。・・・まあ、これでエレさんもしばらくはミリュウさんのことをあきらめてすっきり
    すると思うし、曲がりなりにも目的は達成されたと言っていいんじゃない?
リリック:タクト・・・頼むから・・・木竜術を覚えてよ。また・・・こんなことが・・・あったら・・・ぼく・・・
     死んじゃう・・・。
タクト:わっ、分かった分かった(汗)。今度カディオさんに頼んでおくから。
リリック:・・・ううっ。
(力尽きるリリック)
タクト:すまない、リリック・・・。
 
作者コメント:あはははは、「血の雨」が降ったのはやっぱりリリックでしたね。いや〜、微笑ましい!(か?(笑))
       これはもちろん、「リリック受難同盟」会長の権利でありまた義務でもあるわけです。

ジェンブライド(渡辺稔/2002年10月20日寄贈)

会長作、リリック受難小説第2弾です。
この小説は、会長の運営しているサイト「MY WORLD」のカウンター500Hit記念で、当同盟副会長の支倉あさきさんから
当初「ミリュウさんが主役で登場するものを」というリクエストを受けたものでした。その後、shichanさんが描かれたウエディング
ドレス姿のジェンを拝見してこのネタが浮かびました(既に「ミリュウさんが主役」という注文はどこかへ吹っ飛んでしまって
います(←殴))。
掲示板でうっかり「僕だったら血の雨を降らせますけどねぇ」と口を滑らせたのがリリックにとって運の尽きでしたね(邪笑)。