ルティナからの手紙


親愛なるリーダー、エヴァンへ


不意討ちの「誕生祝い」、確かに受け取った。クラッシュヘッズの演奏を、音のカケラに封じるとは考えたな。
思えばこの演奏の全ては、あたしたちが持ち帰った音のカケラによって生み出されたわけだ。つまり、この演奏は独立第7部隊の活動の副産物と言っても差し支えない。演奏を聴くにつれ、懐かしい日々・・・仲間の顔が次々と脳裏に蘇り、不覚にも少し涙が滲んでしまった。
これは、あたしの一生の宝物にする。“思い出”をありがとう、エヴァン。

しかし、あたしの誕生日などを気にかけてくれている相手など、正直いないと思っていた。そこへ来てこの手紙だからな。本当に、お前には敵わない。
思い返せば、お前には出会ったときから調子を狂わされ続けだったな。
普通の人間であれば、得体の知れない特殊部隊の隊長・・・それも、不機嫌そうに眉を寄せている相手は避けるものだぞ? それをお前は、暇さえあればあたしに声をかけにきてくれたな。当時は迷惑以外の何物でもないと思っていたが、今はそれがお前なりの気遣いだったのだと、はっきり分かる。
皆と分け隔てなく話ができるようになったのも、こうして素直な気持ちを言葉にして表現できるようになったのも、エヴァン・・・お前のお蔭だ。改めて、礼を言わせてもらいたい。
ありがとう。

お前の手紙で、ノーチス側の近況については概ね知ることができた。こちらの話だが、あたしはその後アルカダ正規軍に所属することになり、現在は兵を鍛える任務に就いている。
確かに停戦は成り、また今回の独立第7部隊の挙げた成果によってアルカダ、ノーチス、ハズマの間の緊張は以前よりぐっと小さくなった。しかし、それが即ち軍の縮小に結びつくわけではないことくらい、お前も分かっているだろう。
今後、軍は他国への侵略を行う存在から、天変地異などの際に国民を守る存在へと、少しずつ変貌していくことだろうな。また、それを成し遂げることこそ、独立第7部隊に所属したあたしたちの使命なのだろうと、今は素直に思えるようになった。

話が逸れたな。
ジェイドは騎士団に戻り、あの若さで副団長に任じられた。相変わらず頑固で融通が利かないところは健在だが、以前のように盲目的にノーチス、あるいはノーチスの人間を否定する、ということはなくなった。反ノーチスに凝り固まった騎士団員と議論を戦わせているところを見かけると、何やら微笑ましく思えることがある。
それよりも、驚くのはティトの方だろう。ロッカの村の道具屋の息子に影響を受けたのか、自分から学校に通いたいと言い出したそうだ。実績と才能が認められ、今はアルカダの誇る王立アカデミーで魔法を学ぶ毎日に、本人はとても充実した様子だ。次に会うときはエヴァン、お前もうかうかしていられないぞ。


長くなったが、最後にもう一度、心からの「ありがとう」を言わせて欲しい。
エヴァン、お前に会えて本当に良かった。これからも末永く健やかに過ごして欲しい。


心より愛を込めて
ルティナ



追伸

お返しに、アルカダ細工のペンダントを贈らせてもらう。
アルカダでは、細工物を贈ることには「相手への無上の友情と信頼」という特別な意味がある。これはあたしたち3人の偽らざる気持ちだ。身近に置いてもらえれば嬉しい。



再追伸

近い内に、皆で集まらないか?
お前の手紙を読んでいたら、どうにも懐かしさが募ってしまってな。思えば、直接顔を合わせる機会も部隊の解散以来なかったわけだし、ミャムたちハズマの状況についても知りたいし。何より、あたしも久しぶりに昔の仲間たちと羽を伸ばしたい気分なんだ。
お前が声をかけてくれれば、断る相手はいないだろう? もちろん、頭の固い我が同胞が異を唱えた場合、説得するにやぶさかではない。ぜひ気軽に相談してくれ。


あとがき

僕がプレイステーション2で初めてプレイしたRPGが『グランディア エクストリーム』でした。
その中に、ルティナというキャラクターが登場します。登場時は敵キャラクターで、その後パーティに加わるという異色の設定。その性格、身のこなしや技が後の「絵巻物」におけるセリエのモデルになったほど、僕の中では存在感の大きなキャラクターでした。

そのルティナに声を当てていた、声優の川上とも子さんが亡くなった、というニュースを目にしました。ニュースで紹介されていた“代表作”は一つも知らない僕にとって、川上さん=ルティナであり、まるでルティナが自分の前から姿を消してしまった・・・かのようなショックを受けました。
『グランディア エクストリーム』はオフラインゲームであり、今後ゲーム内容が更新されるわけではありません。当然、今までもそしてこれからも、川上さんが演じたルティナは永遠にそこにいます。それでもなお、こうして好きなキャラクターの声を担当していた声優さんが亡くなる、というのは僕にとっては初めての経験で、その切ない想いを形にしたのがこの話です。

ちょうどさだまさしさんの『Birthday』(NHKの「鶴瓶の家族に乾杯」のテーマ曲です)を聴いていたこともあって、話はその流れをそのまま形にしています。ゲームには登場しない、言わばゲームの「後日談」の内容ですが、僕にできる最大限の「感謝」を込めて、記念にここにアップしておくことにします。
川上さん、ルティナを演じてくれてありがとう。どうか、安らかに眠ってください。

BGM:『Birthday』(さだまさし)