「あら・・・?」

ナーガの首都パルミ。港町に軒を連ねる舶来の商品を扱う店の数々、その一軒である酒屋の店先。
店員が酒瓶を包むのを待っていたその人物は、被っていたフードを脱ぐと西の空を眺めた。零れ出た
若草色の長い髪が、秋の日差しにきらりと光る。
久しぶりに感じた風竜術の気配。これは気のせいか、それとも・・・。

「どうしたんだい、姐さん?」

手を止めた店員が、そっぽを向いたままの相手に声をかける。しばらくそのままの状態でいた相手は、
やがて何かを見つけたらしく身を乗り出した。

「・・・!」
「・・・どうしたんだい? 変わった鳥でも飛んでるのかい?」
「ふふ、そんなとこ。・・・ありがとう、お釣りはいいわ。」

出来上がった包みを相手に渡しながら、店員も西の空を見上げた。だが、彼の目には特に変わった
ものは目に入らなかった。そんな店員にドレーク金貨を渡すと、相手は確認するように店員に訊く。

「ここから北にある島の名前は・・・オノトア島だったわね。」
「そうだよ。・・・ああけど、もしそっちに行きたいんならあと一時間は待たなくちゃ。オノトア行きの
連絡船は、さっき出ちゃったばかりだからね。」
「それなら大丈夫!」

何が大丈夫なんだろう・・・と訝しげに相手を見やった店員の目が驚きに見開かれる。今の今まで
隣に立っていた筈の相手の姿が、既に数リンクの高さに浮かんでいたからだ。
旋風をまとった相手はにっこりすると、店員に向かってこう告げた。

「私、飛べるもの!!」

そして、声をかける間もなく北の空へと飛び去った。その後姿を呆然と見送っていた店員は、やがて
こう呟いたのだった。

「今のは・・・なんだったんだ?」