誰にも言えない
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げんなりした様子で肩を落としたルクレティアに、今度はフィリックが尋ねる。
「そう言えばさ。」
「何?」
「ティアは、なんで食堂にいたのさ。メニューをじーっと見てた割には、結局何も注文しなかったし。」
「え゛・・・えーと、それは・・・」
「紅茶を飲むんだったら、もっといい場所がいくらでもあると思うけど。」
「う・・・」
「・・・そっちこそ、早く家に帰った方がいいんじゃないの? クレオさんなら、お菓子から何からなんでも
ござれだと思うけど?」
「・・・・・・。」
「・・・どしたの?」
途中から肩を震わせていたルクレティアは、ここで憤然と顔を上げるとテーブルを握り拳で思い切り
叩いた。
「・・・そうよ! 大体、クレオが全部いけないのよ!!」
「は・・・はぁ?」
「人が・・・人がせっかく、歯を食いしばって我慢してるっていうのに! そういう日に限って、私の
大好物を出したりして・・・!! お・・・思わず食べ過ぎちゃうじゃないの!!」
「えーと。つまり・・・ティアは、減食中なんだ?」
「!!!!」
相手の剣幕に戸惑いを見せつつも、端的に事実を口にするフィリック。ルクレティアは慌てて口を
押さえたが、後の祭りであった。
「なんだかさっきから様子が変だと思ったら・・・そういうことだったの。」
「そっ・・・そうよ! 悪い!?」
「いや、悪くはないけど・・・」
「けど、何なのよ!!」
「まだ、僕たちは育ち盛りなんだからさ、あんまりそういうことを気にしない方が・・・」
「うるさいわね! 女心は男には分からないものなのよ!!」
「あ・・・そう。ごめん。」
素直に頭を下げるフィリック。その様子に、ルクレティアは少し落ち着いたらしい。椅子に座り直すと、
大きな溜息を一つつく。
「本当は、家でも食べる量を減らしたいのよ。でも、出してくれた料理を残すのも悪いし・・・ああもう、
どうしていいか分からない・・・」
「うーん・・・」
しばらく考えていたフィリックは、やがて顔を上げるとルクレティアに向かってにっこりと笑いかけた。
「そうだ、いいことを思い付いた。クレオさんが気を悪くしないで、しかもティアが太らないですむ
方法がさ。」
「え・・・?」
「君が、自分で料理をすればいいじゃないか。」
驚いた表情を浮かべるルクレティア。そんなルクレティアに向かって、フィリックはにこにこと言葉を
継いだ。
「そうすれば、太りそうな食材を避けることも、自分の好きな味付けにすることもできるんじゃない?
“花嫁修業だ”って言えば、クレオさんもきっと喜んで教えてくれるさ。」
「は・・・花嫁!?」
「うん。この学院を卒業したら、もう充分その資格はあるってことになるんだし。」
「それはまあ・・・そうだけど。」
「なんだい、浮かない顔して。ははあ、ひょっとして・・・一人だとやる踏ん切りがつかないとか?」
「・・・うん。実は、そうだったり・・・」
恥ずかしそうに頷いたルクレティアに向かって、フィリックは大きく自分の胸を叩いてみせた。
「わかった! じゃあ、僕も付き合うよ。」
「え!? フィリック、あなたも?」
「僕も、料理には興味あってさ。いつか誰かに、ちゃんと習おうと思ってたんだ。」
「でも、それならジラルドさんだって・・・」
「父さんは、イゼルニア料理以外はほとんどできないし・・・それに、あんな性格だからさ。『完璧な
料理を・・・』とか言い出しそうで怖いんだよね。」
「そうね、さっきの話じゃね・・・」
納得した様子で肩を竦めるルクレティア。苦笑いしたフィリックは、椅子から立ち上がると自分の鞄を
背負った。
「というわけで、料理をする日は僕もそっちに行くからさ。クレオさんにもそう言っておいてよね!」
はしがき
ルクレティアとフィリックが料理をするようになったきっかけは、実はルクレティアのダイエットだったの
でした(邪笑)。ちなみに、このパンケーキの食べ方と「父が作ってくれたパンケーキ」の話は実話です
(笑)。