お買い物
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首を振りながら店の奥へと消えたシェバは、しばらくすると台車に樽を一つ載せて戻ってきた。樽の
中には、様々な形状の長柄の武器が入れられている。
「おーい、レティシア。こっち来いよ。」
「・・・どうも、並べられている槍は軽過ぎていかん。ご主人、もう少し重いものはないのか?」
「そう言うと思ってさ。とりあえず、それらしいものを用意してもらった。気に入るものがあるかは
分からないが、じっくり品定めしてくれよ。」
肩を竦めながら二人の方へと戻ってきたレティシアは、ロッタルクの言葉に訝しげな表情を浮かべた。
「それは構わぬが・・・アルカード、おぬしはどうするのじゃ?」
「おう。久しぶりのダイルートだからな、ちょっとその辺ぶらついてくる。」
「そうか・・・。ここに、戻ってくるのじゃな?」
「そう心配そうな顔をするなって。ああそうだ、シェバ・・・」
レティシアに笑いかけたロッタルクは、店の入り口に向かって踵を返しかけ・・・何を思い出したのか、
そこで振り向くと再びカウンターに肘をついた。
「この辺りに両替屋はないか?」
「両替屋ですか? ないことはありませんが・・・今は情勢がきな臭いですし、そもそもこの島のレートは
あまり高くはありませんよ。」
「仕方ないだろう。背に腹は代えられないさ。」
ポケットから、ロッタルクが取り出したのは大判の金貨だった。ナーガ全域で主に流通している、
商業通貨のドレーク金貨に比べて三倍以上の大きさがある。
「持ってたのがこれだけでさ。・・・ったく、どこの店でも受け付けてくれなくて大変だった。」
「カイト金貨では致し方ないでしょう。その価値を知らない者も多いですし、そうでなかったとしても・・・
釣りを出すのは大変です。」
「全くだ。」
肩を竦めたロッタルクは、金貨をシェバに向かって押しやった。
「というわけで、これはお前に預ける。武器の代金はここから差っ引いておいてくれよ。」
「かしこまりました。とは言いましても、流石に多いですが・・・。」
「じゃ、レティシアの注文でも聞いてやってくれ。あ、それから十ティールほど貸してくれ。このままじゃ、
何もできないからな。」
シェバが取り出した銀貨を受け取ると、ロッタルクはいそいそと店を出ていった。その後姿を見送って
いたレティシアに、シェバが声をかける。
「どうです? 何か、お気に召したものはありましたか?」
「そうじゃな・・・。やはり、これかのう。」
レティシアは、樽の中から一際大きな武器を取り出した。長い柄に、斧の刃が取り付けてある・・・
いわゆるポールアクスである。
「重さもこれぐらいが丁度良いし、この“斧”と言ったかの・・・この刃が気に入った。」
「ロッタルク様は、槍と言われました。失礼ですが、槍を遣われる方にこれは扱いづらいのではないで
しょうか?」
「心配は無用じゃ。じゃが、ご主人の言ももっともじゃな。ふむ・・・」
しばらく考えていたレティシアは、一つ頷くとポールアクスを担いだまま店の入り口へと歩き出した。
慌てたシェバがその後を追う。
「あの、どちらへ?」
「何、心配は要らぬよ。まともに扱えるかどうか、そこの往来で試してみるだけじゃ。」
「な・・・」
路地を出て、大通りに戻る。携えていたポールアクスを構え、徐にそれを遣い始めたレティシアを、
シェバは信じられない思いで見守った。
(やはり・・・只者ではなかったな・・・)
このポールアクスは、その昔シェバが店の“看板”として打ったものだった。そもそも売り物にする
つもりはなかったため、優雅な装飾の数々と相まって重さは優に二グレスを超えてしまっている。
大の男でもまともに構えるのは難しく、ましてやそれを自在に振り回すことなど不可能に近い。
ところが、目の前のレティシアという女は、華奢な見かけとは裏腹に凄腕の遣い手だった。本来は槍の
遣い手らしいが、勝手が違うはずのポールアクスも見事に遣いこなしている。その軽々とした動きは
美しくさえあり、いつしかシェバはレティシアに見とれていた。
「レティシア!」
「!」
不意に、背後からレティシアを呼ぶ声がした。振り向いたレティシアに向かって、リンゴが飛んでくる。
白刃が煌く。ややあって、リンゴは綺麗に四つに割れた。
往来でレティシアのことを見守っていた見物客から、歓声と拍手・・・そして多数のコインが降り注ぐ。
どうしていいか分からず、頬を染めて立ち尽くしていたレティシアに、片手にリンゴの入った袋を抱えた
ロッタルクが歩み寄った。
「お見事! おう、それにするのか?」
「う・・・うむ。これで、ご主人にも納得していただけたであろうし、な・・・」
「納得?」
話が見えずに、傍らに立っていたシェバの方を見やるロッタルク。当のシェバは、首を振ると真面目な
顔でこんなことを言った。
「やれやれ、ロッタルク様も大変ですな。・・・想い人がこれほどの手練では、夫婦喧嘩も恐ろしくて
できませんな。」
その言葉に、ロッタルクとレティシアはたちまち赤くなった。・・・もちろん前者は狼狽から、後者は
羞恥からである。
「な・・・ふ、夫婦じゃと!? アルカードよ、お・・・おぬし、わらわたちのことをそのように
話したのか!?」
「へ!? い、いや、誤解だって! オレは何も・・・おい、シェバ!!」
「話したのかと聞いておるのじゃ! わらわの目を見て答えぬか!?」
「おい、レティシア! 分かった・・・危ないから、刃を近付けるなって!!」
「う・・・うるさいうるさい!! お前のような破廉恥な奴は、こうしてくれるわ!!」
「や・・・やめろって!! おい、シェバー!! 何とか言えー!!」
「ええい、待たぬか!!!」
頭を抱えたロッタルクが路地に逃げ込み、それをポールアクスを構えたレティシアが追う。この時ならぬ
“痴話喧嘩”に、往来は大きな笑いに包まれたのだった。
はしがき
やっぱり、レティシアには武器がないと、ということで書いたこの話。・・・めちゃくちゃ目立つものを
選んでしまったような気がするのは、きっと気のせいです(邪笑)。