二人組  1   

二人組


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「遠路はるばる、ご苦労様でした。この度の歌会はいかがでしたか?」
「は、滞りなく。我が軍の者たちの歌詠みも、一段と上達したようでした。」
「そうでしたか・・・。冬将軍、シラカバ殿はお元気でしたか?」
「は。殊の外壮健なご様子で、陛下にもよしなに・・・という言伝を預かっております。」

春の都、宮殿の玉座の間。春帝キキョウの前に跪いたアヤメは、春冬両軍間で既にすっかり恒例と
なった“夏の歌会”の報告をしているところだった。

「シラカバ殿は、秋の歌会にはおいでにならないのですか?」
「は・・・陛下と同じく、シラカバ殿も北都を統括される身。やはり、おいそれと外に出る訳には参らぬ
かと。」
「そうですね。しかし、一度は直にお会いしてみたいもの・・・」
「陛下! そやつの言うことに耳を貸してはなりませんぞ!!」

不意に玉座の間に響き渡った怒声に、一同は部屋の入り口に目をやった。
声の主は、丞相のカンナだった。ずかずかと玉座の間へ踏み込んできたカンナは、跪いたままの
アヤメたちを憎々しげに一瞥した。

「陛下、滅多なことを言われるものではありませんぞ! 長年の仇敵である冬の者どもが、
おいそれと恨みを捨てるとお思いですか!? 今も何を企んでいるか分からぬというのに・・・
その冬軍の首魁に会うなど、もっての外です!!」

「しかし、丞相。私たちは、既に和平への道を・・・」
「その“和平”とやらも、全てはこの売国奴の仕組んだこと! 決して冬の者どもに心を許しては
なりませんぞ!!」

「丞相!」

カンナのあまりの言い様に、アヤメの妹であり、今は一軍の将となっているシャガが噛み付いた。

「言うに事欠いて売国奴とは! 丞相、さすがに口が過ぎるのではありませんか!?」
「黙れこの腰巾着が! 大都督の威光を嵩に着て、大きな顔をすると許さんぞ!?」
「な・・・なんですって!?」
「よせ、シャガ。」

いきり立つ妹を制し、アヤメは立ち上がるとキキョウに向かって一礼した。

「では、陛下。一通りのご報告も済みましたし、我らはこれにて失礼させていただきます。」
「・・・そうですね。まずは、ゆっくり体を休めてください。」
「ありがとうございます。・・・丞相の言われたことも、また一理あります。不可侵条約・・・特に、冬軍の
ことを良く思っていない者たちが、未だ大勢いるのもまた事実。長年に亘って戦を続けてきたのです
から・・・それもまた、致し方ないのでしょう。」
「アヤメ・・・。」
「様々な者の意見を、公平に聞かれるべきです。その上で、最後の判断は、陛下ご自身で下さねば
なりません。それを、くれぐれもお忘れなきよう・・・。」

最後にもう一度礼をしたアヤメは、隣で腕組みをして自分を睨み付けているカンナにも小さく頭を下げ、玉座の間を出ていった。


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