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プレイヤー


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男は、小高い丘に一人立っていた。
眼下の平原では、麾下の軍勢が交戦を続けている。一時は膠着状態に陥ったものの、増援が
到着して勢いを盛り返してからは、戦いは自軍の優位のうちに進むようになっていた。敵勢が
壊滅するのは、恐らく時間の問題だろう。

(・・・!)

男がそう考え始めたときだ。敵勢のうち、比較的弱体だった左翼が崩れ、敗走に入った。それに
引きずられるようにして、敵軍全体が東へと潰走を始める。
自軍陣営から歓声が上がり、前線の士卒が我先にと追撃に入る。それを認めた男は、間髪を
容れず伝令を呼んだ。

「深追いはするな。軍をまとめ、次の移動に備えるように伝えよ。」
「はっ!」

相手は、敵国の王の片腕とも言うべき将だった。その別働隊をこうして屠った今、戦況は圧倒的に
自軍にとって有利になったはずだった。後は、いかに早急に主戦場へと戻ることができるかが
勝負だった。
そうだ。この戦を勝ち抜き、念願の“自分たちの国”を建てる。長年の夢は、ほんの少し手を伸ばせば
届くところまで来ているのだ。
決意を込めた眼差しで、東の空を見上げる男。その瞳に山地の向こうから立ち上る狼煙が映るのと、
主戦場からの伝令がその場に駆け込んでくるのはほぼ同時だった。

「もっ・・・申し上げます! 本陣苦戦! 至急、救援に戻るようにと、殿のお言葉です!!」
「いかん! ・・・各軍に、急ぎ主戦場へと馳せ戻るように伝えよ! 一刻の猶予もならんぞ!!」

顔色を変えた男の命令で、軍が動き出した。しかし、二つの戦場を隔てる山地に差し掛かった
ところで、その足が止まる。

「何をしている! さっさと進まんか!」
「そ、それが・・・敵軍が峠を占拠しております。高所からの攻撃に手を焼いておるところでして・・・」

(くっ・・・先程の軍か! こんなところに居ようとは・・・)

もしかしたらこれは、敵の策略だったのではないか。殿と自分を分断し、その間に本陣を陥れようと
する敵の王の・・・。
唇を噛み締めた男が、手にしていた采を振る。

「構わん! 多少の犠牲は厭わず、力押しに攻めて突破せよ!!」
「かしこまりました!!」

男の命令一下、中断されていた攻撃が再開される。しかし、地形を巧みに利用した敵軍の反撃も
また苛烈で、少しずつ犠牲が増えていく。

(殿! 今参りますぞ・・・! どうか、耐え抜いてくだされ!)


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