プレイヤー
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「よし。・・・これで、詰みだな。」
「な・・・ッ!! いや、その手は待て!」
「戦に“待った”は無しだぞ。ほら、観念しろ。」
ティエンの言葉に、ガリアティードは思わず椅子から立ち上がった。歯軋りをしている相手に向かって、
にやりと笑ったティエンが言う。
「囮を使って、敵軍を分断するのは戦の常道。まさか、あっさりと引っ掛かってくれるとは思わ
なかったぞ。」
「う・・・うぬッ!! おのれ、謀られたか!!」
二人の向かい合って座るテーブルには、一枚の木でできた盤が置かれていた。その上には白黒に
塗り分けられた駒が散らばっている。
南大陸・・・真竜族の国で初の“軍”を組織するに当たって、戦場での軍の指揮を学びたいと言い
出したのは、ガリアティードの方だった。それ以来、北大陸で幾多の戦を指揮してきたティエンを
教師役に、こうして遊戯を通じて戦のあれこれを学ぶ日々が続いている。
「一つ教えておこう。・・・決戦を前に自軍を分かつことは、絶対にしてはならないことだ。たとえ、
どんなに魅力的な対象があったとしてもな。」
「く・・・くそッ!!」
顔を赤くしたガリアティードが、握り拳でテーブルを思い切り殴り付けた。その拍子に床に落ちた駒を
拾い集めながら、ティエンが溜息混じりに言う。
「いつもながら、お前の戦術は剛直過ぎる。もう少し、“駆け引き”というものを学ぶべきだな。戦場でも、
会議でもな。」
「なッ、何だと!? ティエン、それは一体どういう意味だ!?」
「どうって・・・言葉通りの意味だよ。」
小さく肩を竦めたティエンは、踵を返すと部屋の出口へと向かった。その背後から、慌てた様子の
ガリアティードの声がかけられる。
「ま・・・待て! 何処へ行く!!」
「どことは・・・さっき言ったろう。書庫に決まっている。」
「さてはティエン、貴様・・・勝ち逃げする気か!?」
「勝ち逃げってなあ・・・。人の昼食中にやってきて、強引に勝負を挑んだのはそっちだろう。大体、
勝負は一回だけという約束だったでは―――――」
「そのような殺生なことを申すな! せめて、今一度!」
「そう言って、結局昨日も日が変わるまで人の部屋に居座ったのは誰だったかな?」
「ぐ・・・」
ティエンの台詞に、言葉に詰まったガリアティードが俯く。苦笑いをしたティエンは自室の扉に手を
かけ、それを押し開けようとした。
(・・・!?)
開かない。鍵は掛かっていないなずなのに、扉がぴくりとも動かないのだ。
(さては―――――)
顔色を変えたティエンが、背後を振り返る。そこにあったのは、復讐の念に燃える隻眼の地竜の姿
だった。
「お・・・おい! 竜術を遣うなんて、卑怯だぞ!」
「何とでも言え! あれだけの辱めを受けて、おめおめと引き下がれるものか! どうあっても、
勝負を受けてもらうぞ!!」
「しかしだな! 私は書庫に―――――」
「書庫は逃げはせぬ、何時でも行くことができよう。・・・さあ、さっさと座れ!!」
「全く・・・。時々、私にはお前が本当に地竜なのか疑わしく思えることがあるな。」
「やかましい! さあ、お前が先攻だ!」
「やれやれ・・・。」
心底呆れ返った表情を浮かべたティエンは、盛大な溜息をつくと不承不承椅子に腰を下ろした。
・・・どうやら今日も、書庫には行けそうもない。
はしがき
2006年大晦日に突然閃いた、『EARTH BEAT』本編から少し後の話です。執筆時間は僅か1時間
足らずで、“年末駆け込み更新”を果たすことができました(笑)。
作中に登場しているのは、いわゆる将棋のようなゲームです。戦争に関わる話が多い「絵巻物」という
ことで、「なんちゃって」を目指した小ネタだったのですが・・・結果的には、ガリアティードのお茶目っぷり
が際立つことになりました(邪笑)。