謎
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静物画があるのだから、当然人物画の授業もある。
二人一組になって、お互いの胸から上の絵を描く。ジークリートの学年は現在七人なので、光竜である
フィリックが教師のパーシスと組むことになった。
「どうして、こんな組み合わせになるんだ・・・?」
「ぶつぶつ言うなよ。それとも何か? ジークにはお目当ての相手がいたとか?」
「やかましい。黙って座ってろ。」
自分の向かいでにやにやしているエルフィートを睨み付けたジークリートは、眉間に皺を寄せながらも、
かなりのスピードで鉛筆を走らせていった。
相手の“邪笑”を紙の上に正確に再現するのは何やら癪だったが、恐らくこれが“写生”というものなの
だろう。几帳面な性格のジークリートは、こう自分を納得させるしかなかった・・・何やら、自分を騙して
いる気がしないでもない。
程なくして、エルフィートの肖像画が完成した。紙の上に描かれた自らの姿を見て、エルフィートが
口笛を吹く。
「ひゅー、いい男! さすがジーク。」
「・・・褒めても、何も出ないからな。」
「ま、これもモデルが優秀だからなんだけど。」
「今度はお前の番だ。つべこべ言わずにとっとと済ませろ。・・・言っておくが、別にお前の絵の腕には
期待してないからな。」
「へいへい。ったく、やる気失せるなあ・・・」
今度は、ジークリートがモデルになる番である。「はい、笑って〜」と言ったエルフィートをぎろりと睨み
付けると、ジークリートは辛うじて微笑を浮かべた。もちろん、なるべくエルフィートの方は見ないように
してである。
(平常心、平常心だ・・・)
静かな室内に、鉛筆を走らせる音だけが響く。しばらくして、エルフィートがぽつり言った。
「・・・どうでもいいんだけどさ。」
「何だ。」
「その、青筋立てながら引きつった笑いを浮かべるの、やめてくれないかな?」
「な・・・何だと!?」
ここで目を上げたエルフィートは、目を剥いたジークリートに向かってにやりと笑った。
「絵が、漫画みたいになっちゃうじゃないか。」
「漫画だと!? おい、まさか―――――」
慌ててエルフィートに駆け寄ったジークリートは、その手元にあった描きかけの絵を覗き込み・・・次の
瞬間、それを取り上げると粉々に引き裂いた。
「あ、おい! 何するんだよ・・・」
「お前には、私の絵をやる! 先生には、『ジークリートがどうしてもモデルになるのを
嫌がったから、自画像を描きました』とでも言っておけ!!」
唖然とするクラスメートたち。振り返ったジークリートの顔は、真っ赤だった。
そこにどんな絵が描かれていたのかは、今でも謎のままである。
*
「・・・でもよ、ちょっと羨ましいな。」
「何がですか?」
「いや、アタシは学校って行ったことなかったからな。どんなことをしてるのか、少し興味があるんだよ。」
遠い目をしていたリュディアは、ふと忍び笑いを聞いたような気がしてジークリートの方を振り向いた。
傍らに立っていたジークリートは相変わらずの仏頂面だったが、よく見るとその口元が僅かに歪んで
いた。
手にしていた通知表をジークリートに押し付けると、リュディアはソファから立ち上がった。腰に手を
当てて、自分よりかなり背の高い相手を睨み付ける。
「・・・おいジーク! 今、アタシのこと笑ったな!?」
「いいえ、そのようなことはありませんが。」
「いいやウソだ。どうせ、アタシが学校にいってもムダだとか、そんなことを考えてたんだろ!?」
「それは、師匠の考え過ぎです。・・・さて、そろそろ夕食の準備でも・・・」
「こら、逃げるな! 待ちやがれ、ジーク!!」
はしがき
クラスで絵が一番上手いのは、五年生になって転入してくるシゼリア。光竜であるフィリックも絵は
上手いですが、それは鉛筆による精密画限定です(←水彩画が大の苦手(笑))。