The Time Will Come 1
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The Time Will Come
−1−
その日は、朝からどんよりと曇った一日だった。
「やあ、君か。・・・待ってたよ。」
何の変哲もない、ありふれたアパートの一室。机に向かって書き物をしていた青年は、ふと感じた人の
気配に振り向き、そして微笑んだ。
そこに立っていたのは、一人の少女だった。紫黒の長髪に、黒曜石の瞳。上から下まで真っ黒な服に
身を包んだ相手が、無表情のまま口を開いた。
「用意は、できたのか?」
「ああ。ご覧の通りさ。」
頷いた青年が、少女の背後に目をやった。
部屋の中は、綺麗に片付けられていた。家具の大半は既に姿を消し、残ったものも段ボール箱に
収められている。まるで引越しの業者が来るのを待っているような状態だ。
それは、ある意味では真実に近かった。青年がこの部屋で暮らすのは、今日が最後だったからだ。
「きさまは、落ち着いているのだな。普通の人間は、見苦しく騒ぐのが常なのだが・・・」
「そりゃ、まあね。去年は大変だったよ。立ち直る・・・っていうか、諦めがつくまでに一月かかったん
だからね。」
「・・・・・・。」
「でも、もういい。やりたかったことも大体できたし、お別れも昨日までに済ませた。後は―――――」
と再び机に向かった青年が、手元の便箋を書き上げた。用意されていた封筒にそれを収め、封を
する。机の上に置かれた封筒の表面には、小さく「遺言」の文字があった。
「こっちの準備も完了。これで、思い残すことはないかな。」
頷いた青年が、無表情のまま突っ立っている少女に視線を向けた。
「それで? この後の予定は?」
「それは、きさまが今思っている通りだ。」
「そうなんだ。・・・じゃあ、もう少し余裕があるんだね。」
くすっと笑い、青年は座っていた椅子から立ち上がった。椅子の背にかけられていた上着を羽織ると、
玄関へと向かう。
「どこへ行く?」
「ちょっと、散歩にね。君もおいでよ。」