魔界のホワイトデー      3 

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「それで、全部フロンちゃんにあげちゃったんですか?」
「ああ、そうだ。」

翌日。謁見の間で立ち話をしているラハールとエトナであった。

「殿下、気前良すぎですよー。甘党の議員どもにばら撒いた方が、よっぽど意味があるのに・・・」
「良いではないか。武器防具の類は事実、全て賄賂としてばら撒いてきたのだからな。」
「だったらそれはそれで・・・あたしにも、一つくらい・・・」

ブツブツと呟くエトナに向かって、ラハールがにやりと笑う。

「まあ、そう申すな。無論、これにはちゃんと理由があるのだ。」
「理由ですか? 一体どんな。」
「うむ。・・・ああ、フロンの様子はどうだ?」

したり顔で頷いたラハールが、傍らを通りがかった人物に声をかけた。
腰まである漆黒のポニーテールに、露出の多い特徴的な装い。魔界病院の医師であるマグダレーナ
は、ラハールの声に足を止めると表情を曇らせた。

「良くありませんね。お菓子の食べ過ぎによる腹痛に、虫歯も随分とありましたし。しばらくは戦いに
出るのは控えていただかないと。」
「なるほど。完治には、どれくらいかかりそうだ?」
「そうですね。虫歯については、この機会に腰を据えて治療に専念していただくことにしましたので・・・
正確には申し上げられませんが、少なくとも二週間は見ていただかないと。」
「そうか。」

頭を下げ、去っていくマグダレーナの後姿を眺めていたラハールの顔に、掛け値なしに不穏な笑みが
浮かぶ。それを目にしたエトナが、素っ頓狂な声を上げた。

「殿下・・・まさか!」
「その、まさかだ。これで、しばらくはフロンの“愛の歌”や“愛のポエム”に悩まされずに済むでは
ないか。」
「あ・・・相変わらずあくどいですねー殿下。あたし、いい話だなーってちょっとほろりと来ちゃったのに。」
「そうホメるな。確かに戦力は落ちるが、あの愛マニアのおかげで下がる士気を考えれば、充分釣りが
来るわ。」

腕を組んだラハールが、大仰にふんぞり返った。

「くくっ・・・今回のホワイトデーは、どうやらオレさまの勝ちのようだな。」
「ねえ殿下。もしかして、ホワイトデーの意味・・・取り違えてません?」
「何を言う。バレンタインデーとやらに“挑戦状”を受け取った者が、意を凝らしてその相手に反撃を
すればよいのであろうが。」
「いや、殿下。やっぱり間違ってます。」
「細かいことを気にするな。・・・フロンの性格だと、もらったものは無理してでも全て食べようとするはず
だからな。それを見越しての、大量の菓子だったのだ。」
「・・・・・・。」
「ふっ・・・これぞ完勝。ハァーッハッハッハ!!」

(フロンちゃんも、報われないなー・・・)

僅かに肩を落としたエトナの傍らで、高笑いを炸裂させるラハール。その笑い声は、いつものように
魔王城内に響き亘っていった。
魔界は、今日も平和だった。


あとがき

バレンタインデーにチョコレートをくれた謀様への“お返し”として書いた小説です(「謀」は誤植じゃ
ありません。そういう人なんです(邪笑))。
実は『魔界戦記ディスガイア』を勧めてくれたのも同じ方で、ホワイトデー当日に「魔界にバレンタイン
デーがあったらどんなだろう」とふと考えたところあっさりとこの話がまとまりまして(笑)。結局お返しは
こういう形でさせていただくことになりました。考えてみれば、“季節物”の小説を書くのは珍しいわけで、
今回またいい経験をさせてもらいました(いや、ちゃんとお返しをしないと後が怖いもので(爆笑))。

なお、文中の店員及び医師の名前は、僕のデータに登場したキャラクターの名前を使ってあります
(これはランダムで決まるそうです)。