フラッシュバック  1     

フラッシュバック


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「ほら・・・たまには、横になって休んでください。いつまでもそのままでは、体に障ります。」
「リア・・・おれのことは、もういい。」

暗竜術士の家の寝室。ベッドの上に身を起こしたまま、トトは竜医のリアを押し止めるような仕草を
した。声を荒げたリアが腰に手を当てる。

「いい、じゃないでしょう! ・・・こんな状態になっているのに、放っておけるわけないじゃない!」
「・・・・・・。」
「・・・とにかく、もう少し何か口に入れてください。これじゃ、治るものも治らなくなってしまいます。」
「・・・・・・。」
「また、様子を見にきますから。」

このリアの言葉にも、トトは何も言わずそっぽを向いただけだった。手付かずのままの食事が載った
お盆にちらりと目をやったリアは、小さく溜息をつくと寝室を後にしたのだった。


  *


「で、どうなんだ? トトの容体は・・・」
「厳しいわね。・・・多分、今年の冬は越せないと思う。」
「そうか・・・。」
「さすがに旅行ってわけには行かないと思うけど・・・何か心残りがあるんなら、今のうちに叶えて
あげた方がいいと思うわ。」

居間に戻ったリアは、待っていた光竜術士のチェスターと暗竜のイトカに向かって厳しい表情を
浮かべた。
トトが倒れてから、もう二週間になる。始めは単なる風邪ということだったのだが、その容体は見る見る
うちに悪化し、今はベッドから出ることもできないのだった。

「もう高齢だっていうのもあるけど、本人があの様子じゃね。せめて食事くらいはちゃんとしてもらわ
ないと・・・術にだって限界があるのよ。」

溜息をつきながら、リアは鞄から小さなガラス瓶を取り出すとテーブルの上に置いた。

「あ、これ・・・あたしが作ったジャム。できる限りの術力を込めておいたから・・・普通のものが食べられ
なくなっても、ヨーグルトとかに混ぜたらいけるんじゃないかな。」
「悪いな。色々と気を遣わせちまって。」
「ううん、こっちこそごめん。これくらいしか役に立てなくて。・・・じゃあ、また明日様子を見にくるから。」
「おう。頼むぜ。」
「・・・ありがとう。」

玄関までリアを見送り、軽く別れの挨拶を交わす。去っていくリアの後姿を眺めていたチェスターは、
小さな声でぼやいた。

「トトの心残り・・・か。・・・トレベスと互角の勝負をしたくらいなんだからな、何を考えてるのか分かりゃあ
苦労しないぜ。」
「・・・チェスター。」
「あん?」

振り向いたチェスターは、イトカの思いつめた表情を目にして少し驚いた顔をした。

「イトカ。・・・おまえ、何か心当たりでもあるのか?」

チェスターの問いに、イトカは頷いた。その手には、すっかりボロボロになった一枚の写真があった。


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