アイスクリーム
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「三日前になるか。実は、春の都から使者が参ってな。」
「使者・・・ですか?」
「うむ。秋に春の都で開催される歌会の招待状を携えてきたのだ。」
懐から一通の書状を取り出したアズサは、それをミズキに手渡した。
「これはもちろん写しだが・・・ほれ、そこにミズキ殿とセンジュの名もあるだろう?」
「あ・・・本当ですね。」
「それで、このことを知らせようとわざわざ冬の都から出てきたのだ。」
「あれ? でも、それだけなら・・・いつも通り手紙を届けてくださればよかったのに。」
ミズキのこのもっとな疑問に、アズサは頷いた。
「無論、その通りだ。だが、この機会に一度ミズキ殿の暮らしている街を見てみたいと思い立ってな。
こうして、はるばる変装して忍んできたというわけだ。」
「は、はあ・・・」
「もう団長、冗談きついですよ。変装ってのは、目立たないようにするもんですよ? ったく、そんな
格好じゃ逆に・・・」
「おのれ、まだ言うかこのッ!!」
「あの!!」
いつの間にかミズキの傍らに立っていたセンジュが、にやにや笑いを浮かべながらアズサをからかう。
再び顔を真っ赤にしたアズサがセンジュに飛びかかろうとしたそのとき、ミズキは大声を上げながら
二人の間に割って入った。
「あの! 折角ここまでいらしたんですから、ここで作っているものを食べていきませんか?」
「あ、ああ・・・それは、願ってもない話だが。」
センジュの胸倉から手を離したアズサが、空になったショーケースをちらりと見る。
「だが、見たところ売り物は・・・」
「はい。ですから、お二人には私たちが試作したものを試食していただきたいんです。」
「おお、思い出したぞ。夏の歌会の折、センジュが言っていたものだな。」
「はい。ちょうど、一つ目処が付いたものがあるんです。・・・さ、センジュ、行くわよ。」
「へいへい。」
小さく肩を竦めたセンジュを、半ば引きずるようにして厨房へと消えるミズキ。ややあって戻ってきた
ミズキの手には、二枚の小さな皿があった。その上には、半球形をした乳白色の塊が載せられて
いる。
「・・・これは?」
「私たちの国の特産品、氷菓にアレンジを加えたものです。普通の氷菓は単に果物の汁を凍らせた
ものですが、他のものを凍らせたらどんな味がするのかと思って色々と試しているうちに、偶然
見付けました。・・・まずは、食べてみてください。」
「そうか。では・・・」
二人の前に皿を置いたミズキが簡単に説明する。頷いたアズサは、添えられていたスプーンを手に
すると、皿の上にあったものを口に運んだ。
「!! ミズキ殿、これは・・・」
「はい。ケーキ作りには牛乳と卵が欠かせないわけですが、それを氷菓にも応用できないものかと
思いまして、試しにそれを混ぜたものを凍らせてみたんです。そうしたら・・・」
「なるほどな。いや、氷菓と言うから淡白な味わいを予想していたのだが・・・このような風味に
なるとはな。」
やがて、ぺろりと皿の上のものを平らげたアズサが、笑顔でミズキに向き直った。
「いや・・・なかなかに美味であった。まさに、北の地ならではの味わいと言うことだな。」
「ありがとうございます。そう言っていただけて、ホッとしました。」
「ところで、名は何と?」
「それが・・・まだ、決めていないんです。」
「ふむ。確かに、単に“氷菓”では・・・そなたの国の特産品と変わらんしな。」
思案顔になるアズサ。その横で、これもしきりと何かを考える風だったマユミが顔を上げた。
「・・・“氷酪”はどうでしょう。」
「氷酪・・・ですか?」
「はい。これは、従来の氷菓に比べて牛の乳を使ったことが最大の特徴なのでしょう? でしたら、
それを名前に織り込めばよいかと思ったのですが、いかがでしょうか。」
「・・・うむ。悪くないかも知れんな。」
頷いたアズサが、ミズキの方を見る。
「ミズキ殿。この菓子は、来年の歌会には・・・?」
「はい。改良を加えて、納得のいく出来になれば・・・と思っていますが。」
「そうか。ふふ・・・来年の夏が楽しみだな。これで、春の者どもの度肝を抜いてやれるわ。」
にんまり笑うアズサ。そこへ、センジュが余計な突っ込みを入れる。
「またまた。春軍の度肝を抜きたいんでしたら、団長がその格好で向こうに乗り込めばいいじゃない
ですか。まあもっとも、冬軍の面々も漏れなく度肝を抜かれると思いますがね。ああ、年長の方々は
下手すると心臓麻痺・・・」
「やかましいわこのたわけ!!」
「あでっ!!」
ぱかーん。
腕を組み、したり顔で話していたセンジュの顔の真ん中に、アズサの投げた皿が命中する。鼻を
押さえてその場にうずくまったセンジュの様子に、ミズキは小さく溜息をついたのだった。
(もう・・・懲りないんだから!)