シングルライフ      3 

 −3−

里が夕暮れに包み込まれる頃。父と娘は、肩を並べるようにして家路についていた。
頭の後ろで腕を組んだカランが、空を見上げながら少し口惜しそうに言った。

「ちっくしょー! やっぱ、オヤジにゃ勝てねえか。」
「当然だろう。やはり、年季が違うからな。まだ、お前に遅れを取るほど衰えてはおらん。」
「ちぇっ。そりゃまあ、そうだけどよ・・・。」

口惜しそうに舌打ちした自分の娘を、クレーズは少し眩しそうに見つめた。

「しかし・・・お前も、腕を上げたもんだな。」
「そうか?」
「ああ。日夜わしが剣を教えている者たちに比べても、お前は決して見劣りはせん。」
「へへっ・・・。オヤジにそんなことを言われっと、なんか照れちまうぜ。」
「これは世辞ではないぞ。負けたら引退してやるとお前には言ったが、実際にそうするのも悪くないかも
知れんな。」
「オヤジ・・・。・・・んなこと言ってっと、またオフクロとケンカになるぜえ?」
「マイカの気持ちも分かるがな。わしはな、自分の進む道を決めるのはやはり本人なんだと思っとる。
つまりカラン、お前だ。・・・好きなように、生きたらいいさ。」
「いいのかよ。それで・・・。」
「史上初の女の守長・・・ってのも、それはそれで面白いだろうさ。」
「ははっ。そうか・・・」

カランとクレーズは、顔を見合わせて笑った。

「しかしな、カラン・・・」
「なんでえ?」
「その格好は、どうしたんだ? 髪を下ろすのもそうだが・・・女物の服など、嫌がって滅多に着ようと
しなかったお前が。」
「そうなんだよなー。どうも、慣れない格好すると気持ち悪くていけねえ。早いところ家帰って着替え
てえぜ。」
「・・・で? 何でまた、そんな服を着ることになったんだ?」
「え? ・・・あ!!」

父親の問いに、苦笑いしていたカランは口に手を当てた。
首を傾げたクレーズだったが、その疑問は家の前に立っていたマイカの鬼気迫る表情を目にして
氷解した。

「いっけねえ・・・」
「・・・なるほどな。ま、後は自己責任だ・・・せいぜい上手くやれよ。」
「そんな、オヤジ! 相手したのは・・・」
「わしは知らん。」
「オイ、待って・・・」
「カラン!! あんた・・・またやったんだって!?」
「でぇっ!?」

そ知らぬ顔で逃げ出した父に向かって手を差し伸べたカランは、母に雷のような怒鳴り声を浴びせ
られて思わず首を竦めた。
・・・どうやら、守長の一人娘の“シングルライフ”は、これからも当分の間続きそうである。


はしがき

カランのことを書いてみたくて、こんな話ができちゃいました(笑)。果たして、彼女に恋人ができる日は
来るんでしょうかね?(邪笑)