週末の過ごし方〜パルムの場合〜
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連れ立って、黄昏時の街を歩く。光竜術による照明が、辺りに幻想的な雰囲気を醸し出している。
レフォールに寄りかかるようにして歩いていたパルムが、不意にくすっと笑った。
「こうして、二人で一緒に歩くのなんて・・・いつ以来かしら。まるで、出逢ったばかりの若い頃に戻った
みたいね。」
「そう言われてみれば、そうだな。あの頃は、二人でよく無茶をしたものだ。」
「そうそう。こっそりデートに出かけては、宮廷の長老たちにお小言を食らったっけね。」
ちょろっと舌を出すパルム。その様子に、レフォールも笑顔になった。
二人が知り合ったのは、今からおよそ三十年ほど前。当時宮廷の侍医長だったレフォールと、新米の
侍医として宮廷にやってきたパルムはたちまち恋に落ち、壮絶な職場恋愛の末結婚したのがその
二年後のこと。
その後、フェスタ成立に伴って動き出した新プロジェクトの一つ、“病院”の管理にレフォールは
駆り出され、代わって侍医長の立場に就いたのがパルムだった。それ以来、二人は離ればなれの
生活を送っている。
話が途切れたところで、レフォールが思い出したように言った。
「そうそう、君の部屋なんだけどね。ただ遊ばせておくのも勿体ないと思ってね、温室にして
しまったよ。」
「え!? そんな、私に断りもせずに―――――」
「いいじゃないか、どうせ一年に何日も帰らないんだろう? それに、目ぼしい家具は皆宮廷の
宿舎に持っていってしまったじゃないか。・・・空っぽの部屋を毎日眺めなければならない、こちらの
気持ちにもなってくれよ。」
「それは・・・。」
竜の寿命は長い。そのため、結婚後の別居についてはあまり抵抗がない。・・・事実、真竜族はその
支配地域に比して人口が少ないため、重要な役目に就くと国内の各地―――――往々にしてそれは
国外や僻地となる―――――に赴任せざるを得ないことが多かった。たとえ家族であっても、離れ
ばなれの生活を送ることになる場合が多く、優秀な者ほどこうした可能性は高いのだった。
不服そうな様子で押し黙ったパルムに向かって、レフォールが宥めるように笑った。
「大丈夫。僕たちの“愛の結晶”の世話は、毎日欠かしていないからね。きっと、今夜もきれいな花を
咲かせてくれると思うよ。」
「だといいけど。・・・言っておくけど、ちゃんと世話してるかどうかなんて、木竜の私が見ればすぐに
分かるんだからね。」
「おお、怖い怖い。」
竜たちの結婚は、独特のものだった。同種族間に限ってのみ許される婚姻は、婚礼のクライマックスに
族長や里長といった長老階級の前で、承認を受けたカップルが同調術を完成させることで成立したと
見做される。フェスタが国家として整備されるに従い、婚姻の成立は国に対して届けを出すことで認め
られると定められたが、そうなった今でも、この習慣は各種族に根強く残っている。
木竜族の場合、多くのカップルが同調術で種を芽吹かせ、それを育てることを選ぶ。選ばれる植物は、
その夫婦の好みや性格によって千差万別だったが、これが夫婦の「愛の絆」の象徴として重視される。
その成長ぶりが、夫婦の愛情の深さを指し示すとも言われているのだ。
レフォールとパルム夫妻が選んだのは、月下美人だった。一年に一度、夏から秋にかけて深夜に
大輪の白い花を咲かせる熱帯の植物。冬は寒く、また夏は多湿となるロアノークでは育てるのが難しい
植物だったが、一年に一度こうして家に戻ってくるパルムのために、レフォールはこの“愛の結晶”を
大切にしているのだった。そして、その夜に二人きりでこの花を眺めるのが、何より幸せに思える
時間なのだ。
「その代わりに、僕のベッドを奮発した。きっと驚くよ・・・何といってもキングサイズだからね。」
「キングサイズって・・・。そんなに大きいのを買って、どうするつもりなのよ。」
「どうって。・・・僕の口から言わせるつもりかい?」
「・・・・・・。」
レフォールにじっと見つめられ、頬を染めたパルムははにかんだような笑みを浮かべた。そんな
パルムの肩を抱き寄せ、レフォールがその耳元で囁くように言う。
「お互い忙しい身の上だから、なかなか逢えないけどね。・・・そろそろ、子供のことも考えないかい?」
「そうよねえ。」
いたずらっぽい表情になったパルムは、口に指を一本当てた。
「私は、女の子がいいなあ。・・・宮廷でユーニスの子竜たちを見てたらね、やっぱり女の子が
かわいくて。」
「ふーん。・・・男の僕としては、やっぱり男の子が一人は欲しいけどね。」
「こればっかりは、私たちの意志ではどうにもならないしね。ま、そこがいいんでしょうけど。」
「分からないよ? そのうち、子竜の性別を自在に選べる時代が、来るかも知れない。」
「ふふ。そうしたら、種族によって性別が大きく偏っちゃうかもね。」
「かも知れないな。」
取り留めのないことを話しながら、通りをのんびりと歩いていく。
フェスタの中心街には、主に各界の大物や国賓クラスが利用する、高級料亭や旅館、ホテルの類が
建ち並ぶ界隈があった。この日、レフォールが予約を入れていたレストランもその一角にあり、夫妻の
結婚記念日はここで祝われるのが常だった。
「さ、着いた。ここからは、僕がエスコートしよう。」
「もう、レフォールったら!」
目的地の前に辿り着いたところで、レフォールがおどけた様子でパルムに向かって頭を下げた。
満面の笑顔を浮かべたパルムは、差し出された夫の手を取ったのだった。