週末の過ごし方〜パルムの場合〜
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「少し、今日は飲み過ぎなんじゃないか?」
「え?」
夫の声に、パルムはそちらに目を向けた。飲み干したワイングラスをテーブルに置くと、小さく肩を
竦めてみせる。
「いいじゃないの、今日くらいは。宮廷は堅苦しくて、羽目も外せないもの。」
「しかしだな・・・」
「いいでしょ。潰れたら、あなたが連れて帰ってくれるんだし。・・・あ、これお代わりお願い。」
「かしこまりました。」
「・・・・・・。」
通りがかったウェイターに、澄まし顔で二本目のワインを頼むパルム。呆れ顔でその様子を見守って
いた夫に向かって、手にしたナイフを翳しながら言う。
「それでね、さっきの話だけど。ユーニスの子供がそろそろ生まれるの。侍医の間でもね、今は
その話で持ちきりなのよ。」
「おお、いよいよだな。産み月は、来月だったか?」
「そうなのよ。そろそろ公務を休んでもらいたいんだけど、本人が頑として聞いてくれなくて・・・。」
苦笑いをしたパルムは、テーブルの上に頬杖をつくと遠い目をした。
「人間って、凄いわよねえ。子供って、あのまま産むわけでしょう? 私たちは、卵を産むときは元竜
だからいいけど・・・一体、どこから出てくるのかしらね。」
「うむ。・・・妊娠の期間も、長いのだろう?」
「ええ。お腹が目立つようになって、もうそろそろ半年になるもの。あれじゃ、普段の生活も不便だし・・・
まさに、命懸けって感じよね。」
「おいおい。命がけなのは、僕たちも同じだろう。」
妻の他人事のような台詞に、レフォールは苦笑いをしながら手を挙げた。やってきたウェイターに、
空いた皿を下げるように言う。
「それでね。出産なんだけど・・・私にも分からないことがたくさんあって。できれば、あなたもユーニスの
出産に立ち会ってくれないかしら。・・・それなら心強いわ。」
「もちろん、それは構わないが・・・。僕には病院の方の仕事もあるし、おいそれと解放してもらえるとは
思えないが。」
「大丈夫、そのことは安心して。私がユーニスを説得するから。」
「王妃様を? しかし、何故―――――」
「もう、野暮ねえ。ヒューはすっかりユーニスの尻に敷かれてるのよ? ユーニスから頼んでもらえば、
うんと言うに決まってるじゃないの。」
「ああ、そうか。なるほどな。」
指を一本立てて、したり顔で言うパルム。夫婦は、木竜らしい陰のある笑みを交わした。
「しかし・・・人間の出産については、僕もあまり良く知らないからな。・・・そうだ。部下の中に、子竜を
術士に預かってもらっている者がいるやも知れん。戻ったら訊いてみることにしよう。」
「お願いね。私は、監察官を当たってみる。ナーガだったら、人間の出産について何か知っている人が
いるかも知れないし。」
「そうだな。当面は、それに期待するしかないか・・・。」
頷いたレフォールが、ワイングラスに手を伸ばす。
「しかし・・・宮廷で、竜王の竜術士の出産を迎えることになるとはな。王妃様も、人間としてはそう若くは
ないと言うし・・・どうしても、万が一のことを考えてしまうな。・・・これは、大きな賭けではないか?」
「そうね。でも・・・これが上手く行ったら、宣伝効果は抜群よ。そうは思わない?」
「うむ、違いないな。時には、こうした冒険も必要ということか・・・」
「うふふ。ユーニスのことだもん、きっと大丈夫よ。」
いたずらっぽい表情になったパルムが、レフォールに目配せをすると自分のグラスを手に取った。
「それじゃあ・・・。私たちの国フェスタと、そこで暮らす竜術士たちのために。」
「そして、僕らの未来のために・・・。」
『乾杯!』
カチン、とグラスが鳴る。
こうして、レフォールとパルムの束の間の安息の刻は、ゆっくりと過ぎていった。
はしがき
今、本伝に書こうと思っている話の中に、結婚を取り扱ったものがあります。「そう言えば、竜の
結婚式はどんな感じになるんだろう・・・」と思い「結婚」について調べてみたところ、色々と面白い
ことが分かりました。それを元に色々と想像を膨らませて書いたのがこの話です。
なお、この話の中で語られているように、レフォールはパルムと共にユーニスの出産に立ち会う
ことになりました。『Rendezvous』でアステルとレフォールが知り合いだったのは、こうした事情に
よります(笑)。