週末の過ごし方〜ヴィーカの場合〜  1     

週末の過ごし方
〜ヴィーカの場合〜


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ゆっくりと、ベッドの上に起き上がる。しばらくの間、ぼんやりと部屋の壁を見つめていた水竜術士の
ヴィーカは、やがてその視線を滝に面した窓の方へと向けた。
南西に向かって開け放たれた窓からは、陽の光が短い帯となって射し込んでいる。それは、時刻が
既に正午に近いことの証だった。

(ああ・・・そうか。今日は、土曜日だったな・・・)

はためく白いカーテンに目をやっていたヴィーカは、自らに言い聞かせるように二度、三度と小さく
頷いた。
この部屋で、曲がりなりにも安眠できるようになって、どれくらいが経つだろうか。
新米の水竜術士として、この家に住むようになったばかりの頃は、滝の音が気になって仕方が
なかった。特に夜は、水の音に混じって様々な声が聞こえるような気がしたものだ。・・・そして、その
どれもが自分を責め立てるものだった。
窓を閉め切って、部屋の隅でまんじりともせずに朝を迎えたことも、一度や二度ではない。



『これも全部・・・あなたのせいよ!! あなたが・・・あなたがいたから!!』
『アイラ! 頼む、聞いてくれ!!』
『あなたのことなんて・・・愛さなければよかった!!』



今でも、よくあの夢を見る。しかし、昔ほどの恐怖や悔恨を感じることはなくなった。・・・それが喜ぶべき
ことなのかは、よく分からない。
ベッドから立ち上がり、窓の前に立つ。
雨季も既に明け、雷竜の月に入ってからは毎日晴天が続いている。今日も、見渡す限りの空には
雲一つない。
昔は、この季節が一番好きだった。爽やかに晴れ渡った空に、強烈な真夏の陽射し。しかし、故郷を
捨てたあの日から・・・昔のように純粋な気持ちで、この空を眺めることはできなくなった気がする。

(・・・・・・)

眼下の滝壺に目をやっていたヴィーカは、小さく首を振ると黙って窓を閉めた。
部屋に響いていた滝の音が、小さくなる。しかしそれは、決して消えることはない。


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