週末の過ごし方〜ヴィーカの場合〜      3 

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一時間後。家に戻ってきたヴィーカは、一本の小さな木を抱えていた。

「おかえりヴィーカ。・・・ってそれ、どうしたの?」
「これは、笹っていうんだ。・・・よし、ここがいいな。」

持ち帰った笹を、テラスへの出入り口の脇の柱に結え付ける。不思議そうな顔で自分のことを見ている
水竜たちの前で、ヴィーカは居間のテーブルの上にあった紙飾りを摘み上げた。

「次は、飾り付けだ。これを、こうして・・・この笹に結び付けるんだ。できるか?」
「わー、おもしろそう! ティナも、やるー!」
「あっ、あたしも!」

目の色を変えたルシリスとアルティナが、早速笹に自作の飾りを結び付けていく。その傍らで、自分に
向かって物問いたげな視線を向けたミリルに、ヴィーカは小さく肩を竦めてみせた。

「俺の故郷の風習でな。ちょうどこの時期、こうして笹に飾り付けをする祭があるんだ。向こうじゃ、
『七夕』って呼ばれてる。」
「たなばた?」
「向こうの暦で、七の月七の夜に行われるものだからさ。国中でこの七夕飾りの出来栄えを競うんだ。
それを見物するために、世界中から人々が集まったもんだった。」
「ふーん。でも、そんな話・・・初めて聞いたわよ。どうして、急にここでもやろうと思ったの?」
「・・・・・・。さあ、どうしてだろうな。」

再びヴィーカが肩を竦めたところで、目をキラキラさせた三番竜と四番竜が二人の許へと駆け寄って
きた。

「ヴィーカ! 飾り付け、終わったよ!」
「次は、どうするのー?」
「よし、次はこれだ。」

テーブルに歩み寄り、残されていた色紙を鋏で細長く切って短冊を作る。三人にそれを一枚ずつ
渡しながら、ヴィーカは言った。

「これに、各自願い事を書くんだ。」
「願い事? どんなことでもいいの?」
「ああ。そして、書けたらそれをこの笹に吊るす。・・・今日の夜がもし晴れたなら、それが叶うと
言われているんだ。」
「へえ・・・。素敵な伝説ね。」
「願い事って、一つなんだよね。うーん・・・何にしよう。」

首を捻って、願い事の内容を考える水竜たち。テーブルの上から最後の短冊を取り上げたヴィーカは、
僅かに躊躇った後・・・さらさらと一枚の短冊を書き上げた。

「ヴィーカは、どんな願い事を書いたの?」
「俺か? それはな・・・」



『それで? 何て書いたんだ?』
『決まっているでしょう? “世界が平和でありますように”よ。』
『おいおい、よしてくれよ。それが叶ったら、俺は失業か?』



遠い目になったヴィーカは、黙ってそれを笹の天辺に結びつけた。それを、背伸びした水竜たちが
覗き込む。



『じゃあ、俺はこうだ。“君の事を、守れますように”。』



「へえ・・・。まあ、ヴィーカらしいと言えば、ヴィーカらしいよね。」
「でもさあ。こういうこと書くのって、やっぱりいい歳ってことだよね。」
「あはははは!」

あの日の誓いは、守ることができなかった。そして、自分は何もかもを捨てて今、このコーセルテルで
一から人生を歩み直している。
・・・同じ過ちは、二度と繰り返さない。それが、今の自分にできることだ。

(・・・・・・)

はしゃぐ水竜たちの声を背に、テラスに出たヴィーカは額に手を翳した。見上げた空は、相変わらず
雲一つない快晴だった。
・・・きっと今夜は、満天の星空に恵まれることだろう。






『ありがとう・・・ヴィーカ。』


はしがき

この話は、リンさんからのリクエストで書きました。本当は7月7日にアップしたかったんですけど、
合同誌の編集作業その他諸々で結局果たせず、今に至ります。まあ、何とか「7月」という線は死守
できたので良しとします(大笑)。

ヴィーカの過去については、『もしも』で少し触れました。今回はそれを掘り下げつつ、水竜術士家の
構成についても書いみたいなあ・・・と思っていたところ、季節柄のこんな話ができました(なお、二番竜
以下は全員女の子で、年齢もかなり離れています(末っ子のアルティナはまだ幼竜です))。
話の最後で、ヴィーカが書いた短冊の中身。そこに何が書かれていたのかは、読者の皆さんの
ご想像にお任せします。