週末の過ごし方〜ヴィーカの場合〜
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「おはよう、ヴィーカ!」
身支度を整え、階下へと下りる。最初にヴィーカに声をかけてきたのは、二番竜であるミリルだった。
「ヴィーカぁ、もうお昼だよ? いくら休みの日だからって、寝坊が過ぎるんじゃない?」
「きゃははは! ヴィーカ、おねぼうさん!」
「ダメよ、二人とも。ヴィーカもいい歳なんだから、そんな言い方されたら傷付くじゃない。」
「おいおい・・・俺はもうおっさんか?」
「はっきりそう言って欲しいなら、そうするけど?」
居間のテーブルを囲んでいたのは、ミリル以下三番竜のルシリス、四番竜のアルティナの三人だった。
言いたい放題の水竜たちの言葉に苦笑を浮かべたヴィーカが、居間のテーブルに目を落とす。
「ところで、俺の―――――」
「あ、ヴィーカのお昼ご飯は、食堂のテーブルの上だよ。リステルが、出かける前に用意してた。」
「出かける・・・? どこへだ?」
「もう、野暮なこと訊かないでよ。恒例の“巡礼”に決まってるじゃない。」
「・・・・・・。」
ヴィーカの補佐竜であるリステルには、“極度の女ったらし”という全く褒められない性癖があった。
こうして休日になる度に、手製のお菓子やら花やらを用意しては、コーセルテル中に愛想を
振り撒きに出かけていく。
もちろん、リステルの“求愛”の対象となる竜術士自身、及びその補佐竜たちに痛い目に遭わされた
ことも一度や二度ではないのだが、当の本人は一向にそれを気にする素振りを見せていなかった。
いい加減報われないことに気付いても良さそうなものだが、その兆しは一向に見えないのだった。
げんなりした様子で心なしか肩を落としたヴィーカが、三人の水竜たちに改めて尋ねた。
「で? お前たちは、何をしてるんだ?」
「見れば分かるでしょ? この間教えてもらった、新作に挑戦してるの。」
「あたしはねー、紙のくさりをつくってるの! ほら、すごいでしょー!」
「こら、ティナ! はさみは危ないから、振り回しちゃダメ!」
コーセルテルでは、紙は貴重品だった。この地の主な住人である幻獣人たちは、文字とはあまり縁の
ない生活を送っており、勢いその需要も低いからだ。
代わって紙作りを一手に引き受けているのは木竜術士のトレベスなのだが、最近はそのための染料の
研究に凝っているらしい。お蔭でその“試作品”がこうして水竜術士家にも持ち込まれ、年頃の水竜
たちの恰好の遊び道具になっているのだった。
『お、今年ももうそんな時期か。毎年、よく飽きないな。』
『また、そんな他人事みたいな言い方! あなたにも、手伝ってもらいますからね。』
『冗談だろ。俺の仕事は、紙じゃなくて敵を斬り刻む方だぜ。』
食堂のテーブルで用意されたサンドイッチを食べながら、紙細工に没頭する子竜たちの姿を眺める
ヴィーカ。その脳裏に、ふと閃くものがあった。
(そうだ・・・)
自室に戻り、愛用の大剣を持ち出す。ヴィーカの外出の気配を察した水竜たちが、次々に
駆け寄ってくる。
「ヴィーカ、どこいくのー?」
「ちょっと、俺も出かけてくる。・・・一時間くらいで戻るから、留守を頼むぞミリル。」
「ああ、うん。それは構わないけど。」
「頼んだぞ。・・・そうだ、訊き忘れていたが―――――」
玄関に向かって歩き出したヴィーカは、その半ばで振り向くと机の上に散らばった紙細工を指差した。
鋏で切っただけのものから、糊でそれらを組み合わせたもの、そして地竜術士アリシアの指導による
本格的な「折り紙細工」まで、その内容は様々だ。
「それ、終わったらどうするんだ?」
「どうするって・・・そうね。いつもは、捨てちゃうけど。」
「俺が帰るまでに、できるだけ多く・・・色々な飾りを作っておいてくれないか。」
「え? ・・・うん、別にいいけど。どうして?」
「それは、帰ってきたら話すよ。じゃあな。」
踵を返したヴィーカは、そのまま玄関から家の外へと出ていった。その後姿を見送っていた水竜
たちは、互いに顔を見合わせたのだった。