カフェ    2   

 −2−

「おい、随分遅かったじゃないか。」
「済まぬ、買い物に思ったより時間がかかってしまった。」
「そりゃ、見れば分かる。・・・で? 一体何を買ったんだ?」

レティシアが宿に戻ってきたのは、昼も間近になった頃だった。
出迎えたロッタルクに、レティシアは抱えていた大きな紙袋の一つを押し付けた。中を覗いた
ロッタルクが目を丸くする。

「何だよこりゃ・・・菓子作りでもおっぱじめようってのか?」
「まあ、それに近いかも知れぬのう。」

袋に入っていたのは、各種の酒の小瓶に様々なスパイス類、オレンジやレモンといった果物だった。
もちろん、砂糖や牛乳に生クリーム、バターといった乳製品・・・そして卵に、チョコレートやココア、
蜂蜜といったものまである。
しかし、菓子を作るなら何にせよ小麦粉が必要なはずである。この当然の疑問を口にしたロッタルクに
向かって、レティシアはあっさりとこう言った。

「当然じゃ。作るのは菓子ではないからの。」
「じゃあ・・・」

何だ、と言おうとしたロッタルクは、レティシアがもう一つの紙袋から取り出したものを見て口を
あんぐりと開けた。
コーヒーミルやドリッパーといったコーヒーを淹れるための道具一式。何に使うつもりなのか、小さな
鍋や泡立て器まである。最後に大きなコーヒー豆の袋を取り出しながら、レティシアはにまーっと
笑った。

「アルカードよ。おぬし、コーヒーのことを苦くて嫌だと申しておったな。」
「あ・・・ああ。それが、どうかしたのか?」
「コーヒーはのう、ああやってただ淹れて飲むだけが能ではない。様々な素材を組み合わせることで、
また違った味わいが出るものなのじゃ。」
「そ・・・そうなのか?」
「そうじゃ。おぬしも知っておる通り、我が祖国では紅茶の代わりにコーヒーが普及しておる。庶民の
間だけではなく、宮廷を初めとする公式の場所でもコーヒーを飲むのが一般的なのじゃ。無論その
飲み方は長年に亘って様々に研鑽され、今では百に余るレシピが存在するのじゃ。」
「百に余るって・・・おい、まさかこれは・・・!」
「そうじゃ、これからおぬしが美味いと思えるようなものを探すのじゃ。それだけの数を試せば、きっと
気に入るものがあるはずじゃ!」

ぞっとしない表情を浮かべたロッタルクに向かって、レティシアは得意げに胸を張った。

「これほど美味いものを飲まぬとは、わらわには信じられぬ。全てのものを試して、それでも駄目なら
諦めようではないか。」
「あ・・・オレ、ちょっと急用を思い出して・・・」

ぢゃきん。

「飲まず嫌いは良くないぞ。のう、そうは思わぬかアルカードよ。」
「言ってることは正論だけど、それは槍を喉元に突き付けて言うことじゃないぞ!」
「んー? 何か言ったかの。よく聞こえなかったが。」
「分かった! 分かったよ! 付き合えばいいんだろ!?」
「うむ、よろしい。やはり、素直が長生きの秘訣じゃのう。」

降参の意思表示に両手を上げたロッタルクは、恨めしそうな目でレティシアを見た。

「レティシア・・・あんた、楽しんでないか?」
「何を言う。これは、おぬしのために涙を呑んでしていることなのじゃからな。何、心配は要らぬ・・・
おぬしの口に合わなかったものは、全てわらわが処分するゆえの。」
「そんなところだろうと思ったぜ! 大体、今急いでやらなきゃいけない理由は・・・」
「今更つべこべ抜かすな、男子に二言は無いと言うではないか。さあ、台所へ行くぞ。女将には話を
つけてある。」
「あーはいはい! 行きますよ、行けばいいんだろ!」

自棄になったロッタルクは、紙袋を抱えたまま部屋を出た。その後から、道具一式を抱えた
レティシアが続く。
こうして、この日の午後はロッタルクにとってとてもとても長いものになったのである。


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