水玉
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「エレ。ちょっと、いいかな。」
リリックから声をかけられたのは、和やかに昼食が終わり、しばらくしてからだった。
クララ以下の水竜たちは、エレが帰ってきてよほどホッとしたのだろう。今は倒れ込むようにして昼寝の最中だった。昼食の片付けを手伝っていたエレは、残りをマリエルに任せるとリリックの許へと向かった。
「何かしら?」
「さあ、入って。」
招き入れられたのは、術の練習部屋だった。
「リリック、何なの?」
「これを、見てほしいんだ。」
天井から床へと流れ落ちる、一筋の水の帯。その中に手を入れたリリックが目を閉じる。
次の瞬間、リリックの掌の上には、小さな水の珠が載せられていた。
「それは・・・。リリック、もしかして―――――」
「うん。できたんだ。」
その意思によって、成長の速さが大きく異なる真竜族。その成竜の証となるのが、竜術を用いて“竜珠”と呼ばれる宝玉を作り出すことだった。水竜族のそれは“天水球”と呼ばれ、術力が強大であればあるほど、透明度の高い美しい珠になるのだ。
しばらくの間、呆然とリリックの天水球を眺めていたエレが、やがてにっこりと微笑んだ。
「そう。・・・できたのね。おめでとう。」
「ありがとう。ふふっ・・・何だか、改まって言われると照れるよ。」
「これで、あなたも一人前ね。早速、里に知らせなくちゃいけないわね。」
「そのことなんだけど・・・。実は、エレに折り入ってお願いがあるんだ。」
そこまで言ったリリックが、不意にその場に片膝をついた。そして、完成した竜珠をエレに向かって差し出す。・・・それは古より伝わる、竜が竜術士に対して無二の忠誠を誓う仕草だった。
「・・・リリック?」
「どうか、これを受け取ってほしい。そして、僕の一生をエレの補佐竜として、共に生きることを許してほしいんだ。」
「・・・・・・。」
「本当は、怖かったんだ。僕は、こんな体になってしまったから・・・。エレが戻ってきたら、役立たずとして里に帰されるんじゃないかって・・・ずっと、悩んでたんだ。成竜になったって分かったら、尚更だよね。・・・だから、このことは黙っていようとも思った。でも・・・」
「・・・でも?」
「やっぱり、エレに嘘はつけない。そう思ったんだ。だから―――――」
「リリック・・・」
ここで顔を上げたリリックが、エレの顔をじっと見つめる。その水色の瞳には、驚くほどの真摯な輝きがあった。
「お願いだよ。エレのそばに、いられるだけでいいんだ。そのためなら、何だってできるようになるよ。家事だって、剣術だって・・・片腕でも、必ずできるようになるから。だから―――――」
リリックがここまで言ったときだ。その頭が、不意に強く抱き締められた。
「もう・・・見損なわないで。片腕だとか、片眼だとか・・・そんな理由で、かわいい補佐竜を私が手放すとでも思っているの?」
「エレ・・・。」
「今までも、これからも・・・私の補佐竜はリリック、あなた一人よ。忘れないでちょうだい。」
「うん・・・。ありがとう・・・エレ。」
目を閉じたリリックが、にっこりと微笑んだ。竜珠を受け取ったエレが、立ち上がったリリックに向かって、いたずらっぽい笑顔を向ける。
「それより、大丈夫なの? 随分と熱烈な告白に聞こえたけど、あなたには意中の女の子がたくさんいるんじゃなかったかしら?」
「心配はいらないよ。それはね、みんなのことだって好きだけど・・・今回のことで、僕にとって一番大切なのは誰か、分かった気がするんだ。・・・愛と恋とは、違うんだってね。」
「そうなの。それじゃ、せいぜい期待させてもらうわね。」
「うん。ここに誓うよ。・・・全てを、エレのために。」
はしがき
合同誌『コーセルテルの音楽会7』に寄稿した短編その2です。
この話は、合同誌6号でご一緒した刻さんが『HAZY MOON』を題材に描いてくださった漫画の台詞から生まれた話でした。文中のリリックの台詞は、かなりそこからいただいていまして、これで少しは「ご恩返し」ができたかな、と思っているところです(笑)。