約束〜ユーニスの場合〜
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「ユーニス様! しっかり・・・ッ!?」
慌ててその体を抱きかかえたグレーシスは、続いて目にした光景に思わず絶句した。
目の前には、もう一人のユーニスがいた。その姿は、かつて・・・ユーニスが初めてグレーシスたち
真竜族の前に姿を現した時の、若かりし日のそれだった。
そして、ユーニスと向き合うようにして・・・もう一つの人影があった。粗末な服をまとった、まだほんの
少年の水竜。
『・・・いや。そのようなことはないぞ。』
「ユーニス様・・・?」
『ああ。・・・これを持っていれば、必ず・・・信じていたからな。』
嬉しそうに笑う水竜の頭を撫でながら、ユーニスは幸せそうな様子で相手と言葉を交わしている。
だが、相手の言葉はグレーシスには届かない。
自らの腕の中には、微笑を浮かべ・・・しかし、目を閉じたユーニスの体がある。それでは、自らの
目の前に佇んでいるのは、一体誰なのか。
答えは、最初から分かっていた。・・・認めたくなかっただけだ。
「ユーニス!!」
少年の肩を抱き、連れ立って歩き始めたユーニスに向かって、グレーシスはあらん限りの大声で
叫んだ。
出会ったあの日から、彼女に対して抱いていた想い。弟のことに対する負い目もあり、また竜たちの
まとめ役という立場もあって、それを表に出すことは避けてきた。
しかし、最期くらいは・・・自らの想いを伝えても、罰は当たらないだろう。
立ち止まり、しかし自らの方を振り返ることのないユーニスに向かって、グレーシスは必死に喋って
いた。
「最後に、一つ・・・私と約束をしてくださいませんか!?」
『約束・・・だと?』
「私が、天に還るその日にも・・・必ず迎えに来ると。」
少し考える様子だったユーニスは、やがて可笑しそうに笑った。
『・・・いいだろう。お前の、最初で最後の願いだからな。・・・聞き届けぬ訳には行くまい。』
「ユーニス・・・」
『お前に預けた、私の剣・・・。それを持って、ここに来るといい。』
「剣を・・・。」
『必ず、迎えに来よう。・・・二人でな。』
にっこりと笑ったユーニスは、グレーシスに向かって小さく手を挙げた。
『さらばだ、グレーシス。・・・長い間、ありがとう。』
「ユーニス!!」
グレーシスにとっては永遠にも思える一瞬の後、辺りは晩秋の静けさに戻った。太陽は既に西の
地平線に没しており、すっかり薄暗くなった木陰を、相変わらずうす灯り球の静かな光が照らして
いる。
長い間、グレーシスはユーニスの亡骸を抱いたままその場に跪いたままだった。やがて、小さく草を
踏みしめる音と共に、背後から小さな声がかけられる。
「ユーニスは、逝ったのね・・・?」
「ええ。・・・知っていたんですか? パルム。」
グレーシスの傍らに立った侍医長は、小さく頷いた。
「知っていたのは、多分ユーニスと私だけ。・・・誰にも言うなって、約束させられて。」
「そうでしたか・・・。」
あくまで、皆に心配をかけまいとして。・・・最後まで、ユーニスらしい。
グレーシスに歩み寄ったパルムが、そっとユーニスの顔を覗き込む。
「私も、初めて見たわ。・・・こうして病や傷に苦しむことなく、一生を終えることができるなんてね・・・。」
「そうですね。・・・最愛の者が迎えに来てくれたのですから、当然でしょう。」
「え?」
グレーシスは、抱きかかえていたユーニスの体を傍らの木にそっともたせかけた。ふと、握り締め
られていたユーニスの左手から何かが零れ落ちる。
(これは・・・)
地面に落ちたのは、一枚の鱗。薄い水色を帯びたその鱗は、かつて自分が“弟の形見”として彼女に
手渡したものだった。
(そうか・・・あれは、お前だったんだな・・・)
元通りにそれをユーニスに握らせると、グレーシスは立ち上がった。
「さあ、パルム。宮廷に戻りましょうか。・・・このことを皆に伝え、葬儀の準備をしなくてはなりません
から。」
「グレーシス、あなた・・・」
「私は、大丈夫ですよ。・・・ユーニスと、約束をしましたからね。」
「約束・・・?」
「ええ。」
涙に濡れた頬を拭いもせず、グレーシスは笑った。
自分が彼女の許へ行けるのは、長い長い年月を経た後になるだろう。しかし、その時には・・・彼女は
自分のためにここに来てくれるのだ。それを心の拠り所にして・・・そうだ、これからも生きていける。
彼女と作ったこの国を守りながら。
(また、お会いしましょう・・・ユーニス)
もう後ろは振り返らず、グレーシスは宮殿の建物に向かって歩き出した。
心の中では、木陰に陣取ったユーニスがいつものように微笑んでいる。その眩しい笑顔は、これからも
決して色褪せることはない。
そう・・・“約束”の果たされる、その日まで。
はしがき
ユーニスの晩年の話です。『PURE AGAIN』のキャラクターの中では日陰(笑)の存在であるグレーシス
ですが、今回こうして「主役」として登場させられて満足です(笑)。
なお、ウィンシーダさんの話のようにこちらも「その後の話」を構想中です。形にできるのはいつに
なりますか・・・。
BGM:『川の流れのように』(リチャード・クレイダーマン)