約束〜アリシアの場合〜  1     

約束
〜アリシアの場合〜


 −1−

「トレベス! トレベスってば!! 起きてよ、大変だよ!!」

その日、木竜術士のトレベスは、補佐竜リアのけたたましい声で目を覚ました。

(何だ・・・また新しいイタズラか?)

トレベスが正式に竜術士となり、リアを預かったのは今から二年前。それからの毎日は、リアによる
あの手この手のイタズラの連続だった。不意を衝くためと称してこうして朝一から叩き起こされることも
しばしばで、トレベスはそんな毎日にもう慣れっこになっていた。

「何だよリア。太陽が西から昇ったのか・・・?」
「もう、そんなんじゃないってば! 家の前に、大ケガした人が倒れてるの!!」
「何だって?」
「早く! 早く、いっしょに来て!」

リアに引きずられるようにして、一階へと向かう。玄関を一歩出たところで、トレベスは顔を顰めた。

「やれやれ・・・こいつはひどい。」
「もう、トレベス! なにのんびり見てるのっ!? 早く、手当てを―――――」
「まあ待てよ。こういうときは慌てたって何にもならないさ。どれどれ・・・」

その場に屈みこんだトレベスは、相手のことをじっくりと観察した。
褐色の肌に淡色の髪は、南方系の特徴だ。身に着けている粗末な服はボロ布とそう大差なく、ところ
どころ裂けた部分から覗く肌は一様に傷だらけだった。そして、素足。とても、まともな生活を送って
いたとは思えない。
何らかの争いに巻き込まれたのか。それとも、何か他の理由によるものだろうか。・・・どちらにしても、
当人がひどい目に遭ったことは確かだ。

(やれやれ。世も末だ・・・)

小さく溜息をついたトレベスは、相手の首筋に手を伸ばした。
弱いが、確かに脈がある。急げば、何とかなりそうだ。

「・・・こりゃ、確かに大変なようだな。」
「だから、あたしが言ったじゃない!!」
「よし、リア。お前は、家に戻ってベッドの準備をしてくれ。客間のが空いてるだろ。」
「うん! トレベスは?」
「俺は、モニカに手紙を書く。どうやら、俺たちの手には負えないようだからな。先代と補佐に来て
もらわないと、話にならん。」

立ち上がったトレベスが、ちらりと家の方を見る。

「事は、一刻を争う。お前にも、色々と手伝ってもらうことになるからな。」
「まかせて! じゃあ、ベッドのしたくをしてくるね!」
「頼んだぞ。」

真剣な顔で頷いたリアが、ぱたぱたと家の中へ駆け込んでいく。表情を引き締め、目の前に横たわる
怪我人に目をやったトレベスは、小さく溜息をついたのだった。

(やれやれ、大変なことになったな・・・)


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