モノは使いよう  1     

モノは使いよう


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冬の精霊たちの都、北都。その中心部に聳える城には、冬将軍と冬軍を支える四つの寒気団の
団長たちの執務のための部屋がそれぞれ設えられている。その中の一つ、リュネル寒気団の団長で
あるアズサの居室は、城の西の丸の最上階にあった。
この日、その西の丸の天守へと通じる階段を上っていく人影があった。比較的大柄で、人の良さそうな
顔をした青年である。その若さにもかかわらず、青年の所作には緊張や怯えといったものは見られず、
こうした場所にも慣れていることが分かる。
こうして最上階に辿り着き、ややしばしの間少し困った顔で辺りを見回していた青年は、少し離れた
ところに人影を見付けてそちらへと歩み寄った。そして、自分より頭半分背の低い相手に向かって
丁寧に声をかける。

「すみません。少しお尋ねしたいのですが。」
「ん?」

振り向いた相手は、小さく首を傾げた。その装束、そして腰に差している刀から、これもかなりの身分で
あることが窺える。

「リュネル寒気団団長、アズサ様の居室はどちらになりましょうか?」
「・・・そういうあんたは?」
「ああ、これは申し遅れました。」

青年は頭を下げると、相手に向かって手を差し出した。

「私はミズメ。この夏より、新たにリュネル寒気団への赴任を命じられた者です。」
「おーおーあんたか。はるばるサワンから飛ばされてきたってのは。」

(飛ばされて・・・?)

相手の何気ない言葉に、ミズメは心の中で首を傾げた。しかし、にっと笑った相手はミズメの困惑を
知らぬ気にその手を握り返した。

「オレはセンジュ。リュネル四天王の筆頭を務めてる。」
「では、あなたがエルウィーズの・・・」

その名には心当たりがあった。世界に散らばる冬軍の永久陣地・・・その最南端に当たる
エルウィーズ山を守護しているのは、団長であるアズサの無二の腹心であるという。

「ま、堅苦しい挨拶は抜き。・・・それで? 今日はまた、団長に何の用なんだ? 出頭命令でも
出たのか?」
「・・・所属が変わったのですから、その団長にご挨拶に罷り越すのは当然のことではありませんか?」
「そりゃ、普通のトコならな。」

にやにやしながら、センジュが言う。

「そうか、別に呼ばれたワケじゃないんだな? 団長、機嫌良けりゃいいけどな。」
「あの・・・。それは、どういった意味でしょうか?」
「気を付けろよ。あの団長は凶暴この上ないからな。・・・逃げ出すんなら、今のうちだぜ?」
「は・・・?」
「んじゃな。オレはこれで。」

手をひらひらと振ったセンジュは、ミズメの前から身を翻すと廊下を歩き始め・・・その途中で
立ち止まると振り返った。

「そうだ。後でオレの屋敷にでも来てくれよ。入団祝いってことでさ、歓迎するぜ?」
「は・・・あ、ああその、ありがとうございます。」
「おう。あ、団長の部屋はそこだ・・・入って待ってりゃいい。」
「はい。重ね重ね、お手数をおかけしました。」
「いいって。じゃ、幸運を祈る! ・・・なんてな。」
「・・・・・・。」

おどけた様子で小さく手を挙げるセンジュ。その後姿を見送っていたミズメは、呆れた様子で小さく
溜息をつくと、指差された部屋へと入っていった。


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