いとしのまおうさま   2     

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マガ森にしては珍しく、よく晴れた穏やかな日だった。
一面の雪景色の中を進む、二つの人影があった。クラブセットの入ったバッグを担ぎ、薄く雪の降り積もった街道をゆっくりと歩いていた長身の青年が、不意に小さく肩を竦めると笑い声を上げた。その声に、傍らを寄り添うように箒に乗って飛んでいた藤色の髪の少女が、不思議そうに首を傾げる。

「マックスさん・・・どうか、したんですか?」
「いや、バイクを置いてきて良かったと思ってさ。雪は降っていないが、こんな路面のコンディションじゃ、命がいくつあっても足りないからな。そうは思わないか、ティッキー?」
「ふふ。確かに、言えてますね。」

ティッキーと呼ばれた少女が、相手のおどけた様子にくすっと笑った。

「なあ、ティッキー。ここまで来てからこんなことを言うのも何だが、本当に俺なんかが家にお邪魔してもいいのか?」
「はい、もちろんです! お姉ちゃんも、私がキャディーをしている選手がどんな人か、一度会ってみたいって・・・ずっと前から言ってましたし。」
「それは、前にも聞いたが・・・。肝心のカディエさんは、今は家を空けているんだろう?」
「はい。魔導士会からの緊急の呼び出しがあって、一昨日から帰っていないんです。」
「呼び出し・・・か。一体、何があったんだろうな。」
「さあ・・・。お姉ちゃんは、何も教えてくれませんでしたし。わたしには―――――」
「おい、ティッキー。あれを見ろ。」

眉を寄せたティッキーが、小さく首を傾げたときだ。不意にその言葉を遮ったマックスが、街道の反対側を指差した。そこには、倒れている人影らしきものが見えた。

「おい。・・・大丈夫か。」
「マックスさん。この人・・・!」
「ああ。もしかすると、カディエさんが呼び出された事情と、何か関係があるかも知れないな。」

道端に、半ば雪に埋もれるような格好で倒れていたのは、まだ年端も行かない黒髪の少女だった。身に付けている服はぼろぼろで、破れた布地を通して垣間見える素肌は一様に傷だらけだった。何より、背中に見える大きな蝙蝠様の翼と、鱗に覆われた長く太い尾は、このパンヤ島に住まうどの獣人族の特徴とも合致しないものだった。
何から何まで、“異常”としか表現できない状況。徐に少女の首筋に手を伸ばしたマックスの表情が、すっと引き締まる。

「まだ、息はあるようだ。・・・ティッキー。君は一足先に家に戻って、このことを知らせてきてくれ。俺はこの子を抱えて、このままこの道を進む。・・・途中で落ち合おう。」
「はい! わかりました!」

真剣な表情で頷いたティッキーが、構えた箒に跨ると一散に飛び去っていった。その後ろ姿を見送っていたマックスが、少女の傍らに屈み込むと、小さな躰を雪の中から抱き上げた。その軽さ、そしてすっかり冷え切った感触に、マックスの表情が曇る。

(まずいな・・・助かってくれればいいが)


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