四重奏        4 

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かくして、その日の夕食は当番であるトレベスの“特製”のものとなった。いつも以上に豪勢な料理の
数々に、木竜たちは何の疑いもなくそれを口にしたのだった。まんまとトレベスの“奇襲”は成功
したのである。
食事が済んでしばらくすると、食卓で食後の紅茶を愉しんでいた木竜たちの様子がおかしくなった。
皆ぼんやりとした表情を浮かべ、目が何となく虚ろである。

「へえ。こんな風になるのか。・・・あまりぞっとせんな。」

小さく肩を竦めたトレベスは、食卓の上にノートとペンを取り出した。

「んじゃ、始めるか。手始めにまず・・・計画中の“いたずら”について教えてもらおうか? 今実際に手を
付けているもの、これからやる予定のもの・・・最近の未遂だったものも含めて、全てだ。」

頷いた木竜たちが話し出す。
一時間後。トレベスのノートは、木竜たちの様々な“いたずら計画”で真っ黒に埋め尽くされることに
なった。

「お前らな・・・。」

呆れ果てたトレベスは、ペンを机の上に放り投げた。腕を頭の後ろで組むと、心底参った様子で
ぼやく。

「・・・ったく。一体何のために、こういたずらに血眼になるのかねえ・・・」
「・・・それは、あなたのためよ。」
「はぁ?」

呟いたリアに目を向けるトレベス。相手は相変わらず、何を考えているのかよく分からない表情で
俯いたままだ。

「俺のため? どうしてそうなるんだよ。」
「トレベスがコーセルテルから出ていけないように、あたしたちはいたずらをしているの。」
「ますます分からん。一体・・・」
「モニカさんがいなくなってから・・・トレベスは笑わなくなったよ。笑顔は見せるけど・・・それは多分、
前と違って作り物の笑顔なんだよね。」
「ラスカさんと一緒にいるときもそう。楽しそうにしてみせてるけど、本当は・・・寂しいんだよ。」
「な・・・」

ロンドとアークに図星を刺され、トレベスは言葉に詰まった。
確かに、ここのところ心から笑うことはなくなった。いつもどこか上の空だとは、自分でも感じていた
ことだ。

「今に、トレベスがいなくなっちゃいそうで怖いの。モニカさんを探しに、外の世界へ出て行っちゃうん
じゃないかって・・・。」
「そう、だから・・・。あたしたちがこうやっていたずら三昧なら、トレベスはここから出ていくことはないで
しょう? あたしたちを野放しにはできないし、かと言って他の人に任せることもできない・・・トレベス
なら、多分そう考えるから。」
「お前ら・・・」

驚いた顔になったトレベスは、木竜たちを見回した。“ウソのつけない実”が効果を発揮している今、
これは四人の紛れもない本心ということになる。
そんなトレベスの動揺を見透かしたように、四人はトレベスをじっと見つめると、揃ってはっきりと
頷いた。

(参ったな・・・。一番大事なことは、見抜けてなかったってわけか・・・)

「どうやら、いらんことを言わせちまったみたいだな。・・・すまん。」

頭を掻き、食卓に両手をついて頭を下げる。顔を上げたトレベスは、久方ぶりの心からの笑顔を
浮かべていた。

「心配するな。お前たちを置いて、ここを出て行ったりはしないさ。」
『本当に?』
「ああ。」
『良かった・・・』

ほっと胸を撫で下ろす木竜たち。・・・と、そこで実の効果が切れた。
目をぱちくりさせる木竜たちを前にして、トレベスはにやりと笑った。

「あ・・・あれ? あたしたち・・・」
「ようお帰り。・・・毒を盛られた気分はいかがかな?」
「毒? トレベスが!? ・・・一体何の!?」
「さあな・・・それが何だったのかは、昼食の係だった二人に聞いてくれ。いやー、たまたま計画を立ち
聞きしちまったもんだからよ、どんなもんかと作ってみたんだ。」
「ロンド! アーク! あんたたち、何を話してたの!?」
「いや、その・・・次は“ウソをつけない実”を作ろうって・・・」
「でも、それだけだよ! 他には特に・・・」
「まさか、トレベス・・・!!」

事の重大さに気付いたロンドとアークは、既に半泣きだった。青ざめて振り返ったリアに向かって、
トレベスは爽やかに笑ってみせた。

「おう、晩メシにしこたま盛らせてもらった。お蔭様で、この先のお前さんたちの“悪事”の予定がよーく
分かったぜ。あとで、その内容はコーセルテル中に通達を出しとくよ。・・・ふふふ、これからはせいぜい
“しっぺ返し”に気を付けるんだな。」
「ねえ、あたしたち・・・どこまで話したの!?」
「それを言ったら終わりだろ。もちろん秘密、秘密でございます。」
「そんな!!」
「油断大敵! 以後気を付け給え。わははははは!」
「もう、あんたたちのせいよ!! バカーっ!!」

ロンドとアークを怒鳴り付けるリア。木竜たちの大騒ぎする様子を眺めていたトレベスは、やがてふっと
微笑を浮かべたのだった。
これからも、退屈はしそうにない。昔よりも、ずっとスリリングな毎日じゃないか。
そうさ。こんな楽しい毎日を放り出して、誰がいなくなるってんだ。
ゆっくり、信じて・・・待つさ。お前たちが、一人前になるまでは。


はしがき

トレベス家の「戦い」の内幕について書いてみました。こうして見ると、トレベスさん・・・さり気にかなり
悪人?(邪笑)