ある朝目が覚めると      3   

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三日目の朝になった。この日、玄関の扉を出たところに置かれていたのは、色とりどりのピーマンとパプリカだった。その数、優に五十個を超えているだろうか。

(なるほど、読めてきたぞ・・・)

カラフルな野菜の山を目の前にして、にやりと笑うガトー。
相変わらず、毎朝の野菜の差出人は不明のままだった。しかし、ガトーは相手の考えていることが何となく分かるような気がした。
早い話が、これは料理人である自分への“挑戦”に他ならない。
最高級の野菜を大量に送り付け、それを活かした料理をきちんと作れるか試しているのだ。

(懐かしいのう・・・)

与えられた食材について、様々な種類の料理を作る修行は、若い頃レイシャに嫌というほどさせられた覚えがある。
焼く、煮る、炒めるといった調理法に、使用する主たる調味料。そして組み合わせる食材によって、料理のレパートリーは無限の広がりを持つ。“一つの型にこだわるな”は、レイシャの教えの中でガトーが最も大事にしているものだった。
しかし、長年の隠棲のために家には調味料が乏しく、生鮮食料品に至ってはほぼ皆無だった。いくら優れた料理の腕前があっても、材料がなければどうにもならない。

(さてと、出かけるか・・・)

家を出たガトーは、村の中心部へと向かった。うるさいくらいの蝉の声を聞きながら、木陰の道をゆっくりと辿る。
思えば、昔は家と食堂との行き帰りに、よく料理の構想を練ったものだった。そういうときに限って、荷物の重さは気にならなかった。二グレス(約十九キログラム)近い食材を顔色変えずに運んで帰ってきた自分に、よくメイアは呆れた顔をしていたものだった。
目的地の雑貨屋は、ガトーの家から徒歩で二十分ほどの距離にあった。店に入ってきたガトーの姿を認めた店主が、目を丸くする。

「こりゃ、珍しいお客さんだ。達者だったかね、ガトー。」
「ああ、お蔭さんでな。」

挨拶もそこそこに、商品の並べられた棚へと向かうガトー。やがて、次々にカウンターに積み上げられた食材と調味料の山に、店主が呆れ顔になる。

「しかし、ガトーよ。こりゃなんの騒ぎだ? ・・・ひょっとして、また店でも始めようっていうのかね。」
「・・・・・・。他人のための料理は、もうしないと言ったはずじゃが。」
「それは、そうなんだが・・・。今でも、仲間内で集まると、よくあんたの料理の話になるからなあ。特に、あの独特のスープの味を忘れられんと言っとるやつが、多いんだよ。」
「・・・・・・。」
「なあ、ガトー。何度も言われたことだとは思うが・・・あんた、食堂を再開する気はないのかね。きっと皆、喜ぶと―――――」
「あんたじゃから、そんな言い方を許したが。」

会計を済ませた商品を受け取りながら、ガトーは店主の言葉を遮った。その凄みのある眼付きに、たちまちのうちに店主がたじたじとなる。

「わしに二度と、その話をしないでくれ。・・・メイアはもう、いない。全て、終わったことなのじゃからな。」
「あ・・・ああ。悪かったよ。」
「・・・また、寄らせてもらう。」

青くなった店主を一瞥し、渡された紙袋を抱えて店を出るガトー。しかし、その言葉とは裏腹に、その横顔は満更でもなさそうだった。


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