ある朝目が覚めると
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そして、五日目。
この日は、竹篭の中に野菜はなかった。代わりに置かれていたのは、一通の手紙。
「・・・・・・。」
昨日のカボチャを余すところなく料理し尽くし、さて今日は・・・と意気込んで出てきたガトーが、拍子抜けした様子で手紙の封を切った。・・・と、たちまちその表情が苦笑いへと変化する。
手紙は、村で暮らす孫娘からのものだった。
『おじいちゃんへ
おひさしぶりです。お元気ですか?
わたしは毎日、元気にくらしています。
お父さん、お母さんも元気です。
でも、おじいちゃんと会えないので、
とてもさびしく思っています。
毎日のお野菜、びっくりしましたか?
お父さんから、木竜さんたちがおいしい
お野菜を作ってわけてくれると聞いたので、
わたしが木竜術士さんにお願いしました。
また、昔のように、おじいちゃんに
おいしいお料理を作ってもらいたくて。
おばあちゃんが死んで、もう三年になりますね。
あれから、おじいちゃんはとてもさびしそうに
しているって、お母さんが言っていました。
どうか、わたしたちといっしょにくらしてくれませんか。
そして、毎日じゃなくてもいいので、またお店を
はじめて、おいしいお料理を作ってくれませんか。
お父さんも、お母さんも、村のみんなも待ってます。
もちろん、わたしもお店のお手伝いをします!
おじいちゃんとおばあちゃんのお店は、みんなで
おそうじをして、いつでも使えるようにしてあります。
おじいちゃんが来てくれるのを、待っています。
カルネ』
「やれやれ・・・全て、お見通しというわけか。」
やはり、料理は楽しい。この四日間は、それを改めて思い出すためにあったようなものだ。そしてそれは、否定しようのない事実だった。
読み終わった手紙を丁寧に封筒にしまい、それを手にガトーは妻の墓標の前へと向かった。いつものように、その場に跪くと墓石をじっと見つめ、ゆっくりと言葉を継ぐ。
「やはり、わしには料理しかないようじゃ。・・・メイア、行ってくるよ。お前の許へ行くのは、もう少し待っていてくれるかね。」
どこからか、返事が聞こえたような気がした。ふっと微笑んだガトーは、封筒を墓石の上に置くと立ち上がり、ゆっくりと歩き出した。皆の待つ、村へ向かって。
*
三年ぶりに再開された、ニアキス族の村唯一の食堂「アベリア」。食堂の中は既に、詰めかけた多くの村人たちで、お祭り騒ぎの様相を呈していた。
その様子を、少し離れたところから見守る一行がいた。深い緑の髪を具えた子供たちは、年恰好も性別もまちまちだったが、その顔は一様にどこか誇らしげな様子だった。
やがて、一行の中心に立っていた銀の髪の青年が、周囲を見回しながら誰にともなく言った。
「今回は、良くやった。一応、褒めてやる。」
「ちょっと、何よその“一応”って。褒めるときは、もっと素直に褒めなさいよね。」
「でも、これで分かったでしょ? 僕たちも、その気になればできるんだって。」
「そうだな。というわけで、今後はずっと“その気”になっててくれるとありがたいんだが・・・」
「ふふふ。それは、保証できないなあ。」
「しかし、最初はどうしようかと思ったがな。あんなもっともらしいチラシをコーセルテル中にばら撒きやがって。何が“夏野菜、摂れてますか?”だ。」
「あ、あれ考えたの、あたし!」
「そうだったわね。ふふっ、中々インパクトのあるキャッチコピーだったでしょ。」
「あれで、大量の注文が来てたらどうするつもりだったんだよ。全く、このコーセルテル中にお前らの怪しげな野菜やら果物やらが、よりによって合意の上で出回るなんて・・・考えるだけで寒気がしてくるぜ。」
「もう、ひどいなあ。僕らだって、誰にでもおもしろ野菜や果物を送り付けたりはしないよ。」
「そうだよ。ちゃんと相手は選ぶもん。」
「へーへーそうかい。じゃ、次からはその“相手”から俺を外してくれるとありがたいんだがな。」
「え? 何か言った?」
「よく聞こえなかったなあ。」
「けっ、言ってろ。・・・ったく、これで少しはお前らを認めてやってもいいかな、なんて一瞬でも考えた俺が馬鹿だったよ。・・・さあ、俺たちも行こう。先代が教えたっていうあの爺さんの料理、俺も楽しみなんだ。」
「うん。そうだね!」
はしがき
崎沢彼方さんにいただいた2013年の残暑見舞に描かれていた、トレベス家の木竜四人組(と夏野菜)のイラストを目にして思い浮かんだ話です。思考時間、僅か五分。大変エコでした(大笑)。
なお、作中の「夏野菜、摂れてますか?」は、残暑見舞いの葉書に書かれていた文章をそのまま拝借しています。
ガトーの使う「独特の調味料」は、ほぼ日本食に使われるものを想像していただければ間違いありません(その発祥の地は、もちろん北大陸のイゼルニアです)。文中に登場している“独特のスープ”は味噌汁のことで、一時期その出汁には何の魚がいいかをガトーが研究するにあたり協力を求めたため、殊更にニアキス族の漁師たちの間では有名なものとなりました。