DAISY FIELD    2     

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「だああああああ、あのクソガキどもめ!! 今日という今日はトサカに来た!!
今度こそはヤキ入れたる!!」

「おい、あんまり興奮するなよ。・・・オレの苦心作が壊れるだろ。」

一亘りエディスを何とかベッドに寝かし付けるのにバタバタした後の居間。
テーブルを握り拳で思い切り叩いたリュディアに、リカルドは渋い顔をして見せた。

「んだよリカルドさんよ、ここまでされて黙ってろってのかよ! アタシのエディスにこんなことしただけ
じぇねえ、大事な形見の楽器まで・・・」
「その“アタシの”もやめろ。子竜たちの手前もある・・・一応エディスとお前は生物学上は同性
なんだからな。」
「うるせえっ! いいか、アタシとエディスはな・・・」

益々激昂するリュディアと、相変わらず冷静沈着なリカルド。二人をどう宥めたものか分からない
様子のクレオは、困り果てた顔でただおろおろしているだけである。

「リュディアさん・・・今日もいせいがいいね。」
「テラ・・・。」
「・・・ああいうのが、かっこいいのかな?」
「よくない!」

居間の片隅からお互いの竜術士のやり取りを見ていたテラにこう口にされ、隣にいたジークリートは
思わず頭を抱えた。次いでテラの問いかけに即答する。
師匠であるリュディアのことは好きだったし、あの破天荒な喋り方―――――実際は自分を含め、
限られた相手の前でしか見せないもの―――――にももう慣れてしまった。だが、将来テラがあんな
言葉遣いになるのだけは嫌だ。絶対に嫌だ。

「しかしまあ・・・お前の言うことにも一理あるな。・・・最近は少々度が過ぎる。」
「だろう!?」

リカルドのこの言葉に「我が意を得たり」といった表情で胸を張るリュディア。
ここで皆が話題にしているのは、エディスの預かる二人の木竜・・・エルフィートとアルフェリアのこと
だった。コーセルテルでは竜術士一人に子竜一人というのが慣例であったが、たまたま双子だったが
ためにこの二人はエディスが一緒に預かることになった。
もちろん、ただでさえそういったことが好きな木竜のことである。最近は徐々に術力も付き始め、その
“イタズラ”は日を追って激しくなるばかり。リュディアがエディスの身の心配するのも無理のないこと
だった。

「・・・それで、肝心のエディスさんはどうなんです?」
「そっ・・・そうだ!! 大丈夫なんだろうな!?」
「ああ、よく寝てるよ。」

クレオ、次いでリュディアに詰め寄られたリカルドは、顔の前で手をひらひらと振って見せた。
エディスを除くと、このメンバーの中で木竜術を使えるのは“竜王の竜術士”の資質を持つリカルド
だけ。そのために、クレオとリュディアはエディスをここへと連れて来たのだった。

「・・・寝てる? だって、あいつらのイタズラじゃ・・・」
「ああ、きっかけはそんなところだろ。けどな、ここに来たときは既にエディスの中に毒はなかったぞ。
・・・多分、疲労困憊が主な原因じゃないかな。」
「疲労だあ? ・・・結局、あいつらが原因なんじゃねえか!!」
「まあ、そう言えなくもないが・・・」
「許せねえ! 今度見付けたらタダじゃおかねえ、そのハネ引っこ抜いて晩のオカズに・・・」
「師匠!!」

ここでついに、今にも“あいつら”を探しに外へ飛び出しそうなリュディアに向かって、ジークリートが
怒気を含んだ声を発した。恐らく、リュディアのあまりの悪口雑言に我慢できなくなったのだろう。

「師匠。ちょっとよろしいですか?」
「あっ・・・ああ、ジーク。・・・何?」
「先ほどの“トサカに来た”とは一体どういう意味なんでしょうか。」
「う・・・あ、その・・・それはね・・・」
「“ヤキ入れる”という言葉にも興味があります。あとで用法等じっくりと教えていただきたいと思い
ますが・・・」

リュディアの方を睨みながら“じっくりと”を殊更に強調するジークリート。そして、傍らのテラの方を
ちらりと見る。

「ここにはまだ年若いテラもいます。・・・あまり『率直な』言葉遣いは程ほどになさってください。」
「うう・・・わ、わかったよ。」

自分も“年若い”子竜の身の上であることを棚に上げ、容赦ない指摘をするジークリート。その様子に、
横で聞いていたリカルドが吹き出した。
しゅんとしたリュディアの傍らで、クレオが溜息をつく。

「でも、困りましたね。」
「何がだよ?」
「ほら、例のコンサート・・・記念祭までもう半月ないんですよ。まだ、曲もできあがっていませんし・・・。」
「そうだなあ・・・。」

腕組みをしたリカルドは難しい顔をした。
第二の竜都コーセルテルが成立してから、今年で約三百五十年。風竜の月五日がその日に当たる
ため、月初めからの五日間はフェスタ各地で壮大な「コーセルテル成立記念祭」が営まれる。時の
風竜王ジェンが大の音楽好きであったため、最終日の五日にはロアノーク・コーセルテル双方にて
盛大な音楽祭が開催されるのが慣例となっていた。
そして今年、リカルドたち四人はそのコンサートにエントリーしていた。だが、ここで作曲を担当する
エディスが倒れてしまったらその計画も台無しとなる。

「リカルドさん・・・どうやら、その“あいつら”が来たみたいですよ。」
「んだと!?」
「ジーク!」

窓から往来を眺めていたクレオの言葉に、リュディアは椅子を蹴倒さんばかりの勢いで立ち上がった。
その様子を見て、リカルドが間髪入れずジークリートを呼ぶ。

「リュディアを頼んだぞ。」
「はい。さあ師匠、こちらへ・・・。」
「何しやがる! 離せ、ジーク・・・」
「その口より先に手が出る性格を直していただけたら、喜んで。」

地竜ならではの能力でリュディアをひょいと担ぎ上げると、ジークリートは工房の方へと姿を消した。
その後からぽてぽてとテラもついていく。

「さて・・・ちょっと“お灸”を据えておくとするか・・・。」

椅子から立ち上がったリカルドは、暗い表情になると誰にともなく呟いた。そして、机の上にあった
壊れたリコーダーを手に玄関へと向かったのだった。


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