DAISY FIELD
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「うわぁ・・・。」
木竜術士の家からさらに北東へ一時間ほど歩くと森は開け、辺り一面に白い花の咲いている野原が
広がる。歩き疲れた一行は、歓声を上げてその中へと走り込んだ。
「これは・・・ヒナギクかな。」
思い思いに腰を下ろして休む中、近くの花といつも肌身離さない百科事典のイラストを見比べていた
ジークリートが徐に言った。頷くエルフィート。
「うん、ヒナギクだね。・・・うちの花だんにも咲いてたなあ。」
「へえ。・・・エディスさんは、ヒナギクが好きなのか?」
「よく分からないけど・・・エディスは地味な花が好きなんだよね。木竜術士のくせにさ。」
「いいじゃないか、どんな花が好きだろうと個人の勝手だろう。」
いつも通りの言い合いを始めるジークリートとエルフィートの横で、ヒナギクをじっと見つめていたテラに
アルフェリアが問いかける。
「ね、テラはどんな花が好きなの?」
「・・・花?」
俯いたテラは、しばらくしてポツリと呟いた。
「赤い花は・・・きらい。」
「えー? どうしてさ。きれいじゃないか!」
「そうよ。テラの赤い髪みたいで、目立つ・・・」
「おい! もうその辺で・・・」
ジークリートは慌てて二人の言葉を遮った。“赤い髪”という言葉を聞いた瞬間、テラの表情にさっと
影が差したのに気が付いたからだ。・・・ジークリートのただならぬ剣幕に、事情を察した二人も口を
噤む。
テラが里にいる間色々と苦労していたらしいということは、今までにもリカルドからそれとなく聞いて
いた。もしかしたら、テラが赤い花が嫌いだというのはそのことと関係があるのかも知れない。
自分の発言が元で辺りに漂った重苦しい雰囲気に、アルフェリアが慌てて話題を変える。
「そ、そうだ・・・ジークが好きな花は?」
「ぼくの・・・? えーと・・・」
予期せぬ質問に眉を寄せるジークリート。エルフィートが横からすかさずちゃちゃを入れる。
「よせよせ、ジークは花になんて興味ないさ。」
「何だって? ぼくだってそれくらいは・・・」
「このヒナギクだって、その辞典の絵と見比べて初めて分かったんだろ? 本物を見たことがある花
なんて、いくつあるかあやしいもんだ。」
「う・・・。でも、野菜なら家でもたくさん作ってるさ!」
「へえ・・・どんな野菜?」
今度はアルフェリアが意地悪い表情で尋ねる。こうして、自ら墓穴を掘ったジークリートはここで益々小さくなることになったのだった。
「え・・・枝豆、とか。」
「えだまめ?」
「あはははは、そんなとこだろうと思ったさ! お酒好きなリュディアさんの家らしいや!」
「そ、それだけじゃないぞ! 落花生だって・・・」
「結局はお酒のつまみじゃない!」
「う・・・うううるさい!! 仕方ないじゃないか、師匠がそうしたいって言うんだからさ!!
それに、枝豆も落花生も体にいいんだからな!!」
ジークリートの師匠リュディアの無類の酒好きは周知の事実だった。そのくせ、酒に弱いのだから
始末に負えない。リカルドたちと仲間内で飲むたびに、ジークリートに担がれて帰るリュディアの姿を
テラはこれまでに何度も目にしていた。
真っ赤になったジークリートに、テラが微笑んだ。
「ジーク・・・リュディアさんのこと、本当にだいじに思ってるんだね。」
「あ・・・ああ、うん。・・・もちろんだろ。」
拳を握り締めていたジークリートは、テラの言葉に・・・少し照れ臭そうに、しかし素直に頷いた。
「さあ、そろそろ出発するぞ!」
「・・・へえー。」
「・・・ふーん。」
「・・・何だよ! 言いたいことがあるなら、はっきり言ったらどうだ!」
『別にー。』
「あっこら、待て!!」
出発を告げたジークリートは、にやにやしながら顔を見合わせていたエルフィートとアルフェリアに
対して声を尖らせた。はぐらかすような笑みを浮かべた二人は、先に立って駆け出し、それをジーク
リートとテラが追う。
目的地は、もうすぐそこだった。