DAISY FIELD          5

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どれくらい眠っていたのだろうか。

「・・・・・・。」

目を覚ましたエディスは、しばらくの間ぼんやりと天井を眺めていた。傍らの窓に目をやると、茜色に
染まったコーセルテルの空が目に入る。

(もう夕方・・・。・・・あれ、私なんでベッドに寝てるのかしら・・・)

「よう、目が覚めたみたいだな。」

気配に気付いたのだろう、隣の部屋からリカルドが顔を覗かせた。

「リカルド。私・・・どうしてここに? 確か、クレオと話してて・・・」
「なぁに、過労で倒れたんだよ。ここはオレの家・・・どうだ、起きられそうか?」
「ええ、大丈夫。」
「ああ、クレオは今台所だ。お前さんが起きたら食べさせるんだって、自慢の腕を振るってる最中さ。」
「そう・・・楽しみね。」

ウィンクしたリカルドに、エディスは微笑んだ・・・刹那、台所から鍋釜類が床に落ちる凄まじい音が
家中に響き渡る。続いて「あー、どうするんですかこれ・・・」という半泣きのクレオの声と、それに押し
被せるように「うるせえ! てめえがうろちょろしてるからいけねえんだろ!!」という怒声。
口をぽかんと開けたエディスに、リカルドは言いにくそうにこう付け加えた。

「ああ、言い忘れてたが・・・リューも一緒だ。・・・お前さんをここへ運んでくれたのは奴さんなんでな。」
「そうだったの。」
「邪魔になるからやめとけって、オレは散々言ったんだがな・・・」
「ふふふ、仕方ないわよ・・・あの性格じゃね。」

くすっと笑ったエディスは、リカルドに差し出された手を取るとベッドの上に身を起こした。
そのときになって初めて、エディスは部屋の片隅にエルフィートとアルフェリアがいるのに気が付いた。
二人とも、床に置かれたクッションの上で毛布に包まってぐっすりと眠り込んでいる。

「・・・リカルド! あれは・・・」
「・・・しっ。さっき眠ったばかりなんだ、そっとしておいてやんな。」
「でも、一体どうしたの!? 二人とも傷だらけ、泥だらけじゃない!」

エディスに睨まれ、しばらくの間黙っていたリカルドは・・・やがてエディスに真っ二つになった
リコーダーを手渡した。

「ああその・・・言いにくいんだがな。お前さんが倒れたとき、これが折れちまったらしくてな・・・」
「え・・・?」
「その話をしたら、あいつらと・・・ジーク、そしてうちのテラの四人で、なんとベルガのおやっさんの
ところまで行ってきたらしいんだ。」
「まあ、この子たちだけで・・・あんな遠くまで!?」
「そうなんだ。さっき帰ってきたところなんだがな、正直言ってオレもびっくりしたよ。場所は知らないはず
なんだが、どうやらテラがオレたちの話を聞いて覚えていたらしい。」
「きっと、一日がかりだったのね・・・。」
「お前さんがここに運ばれてきたのが朝早くだったからな。・・・随分疲れているようだったから、エルと
アルにはベッドで休むように言ったんだが・・・どうしてもここにいるって聞かなくてなぁ。」
「・・・・・・。」

(もう、仕方ないわね・・・楽器なんかより、あなたたちの方がずっと大事なのに・・・)

「・・・ああ、枕元の花は土産だそうだ。」
「土産?」

枕元を振り向いたエディスの目に映ったのは、小さな花瓶に活けられた一輪の花。木竜術士である
彼女には、それがヒナギクの花であることがすぐに分かった。

「その花瓶はテラとな、この間作ったんだ。せっかくの花にはちょっと不細工なんだが、まあ許して
やってくれ。・・・ああ、その花が一輪なのは・・・」
「ええ、まだこの子たちだけでは花を再生させることはできないからでしょう。ねえリカルド・・・」

この日に限っていやに饒舌なリカルドをエディスは柔らかく遮った。そして、相手の目を真っ直ぐに
覗き込む。

「私が倒れたのは、この子たちのイタズラが元だったんでしょ?」

微笑んだエディスに、リカルドは決まり悪そうに頭を掻いた。

「なんだ、バレちまったか。・・・実はな、最近どうもイタズラが過ぎるようなんで少々キツく叱っちまったん
だよ。差し出がましいことをして悪かったな。」
「いいのよ。リカルド、あなたなら加減を知ってるでしょうし・・・。」
「そう言ってもらえると救われた気がするぜ。」

リカルドは、部屋の片隅で眠り込むエルフィートとアルフェリアの方に目をやった。

「一緒に行ったジークとテラから聞いたんだが・・・おやっさんにはあいつらが必死になって頼んだ
らしい。何でも、土下座して“できることは何でもやります、引き受けてくれるまでは帰りません”と
頑張ったんだそうだ。」
「まあ!」
「さすがのおやっさんも断れなかったらしくてな・・・直すのは無理だが、新しいものを必ず記念祭までに
作ってくれるそうだ。」
「そうだったの・・・。」

ベッドから降り立ったエディスは、眠り込んでいるエルフィートとアルフェリアの方へ歩み寄った。そして、
二人の上に屈み込むとその頭を両手で撫でる。

「ふふ、まだまだ不器用ね・・・。」

二人の頬にうっすらと残っていた涙の跡を拭うとエディスは立ち上がり、リカルドの方を振り向いた。

「リカルド・・・今度のコンサートの曲だけど。」
「ん? ・・・ああ、無理しなくてもいいんだぞ。コンサートは来年もあるんだし・・・」
「違うの。その花を見てたら、曲想が浮かんできて・・・」
「そうか! そりゃ楽しみだ・・・で、曲名は? もう決まったのか?」

勢い込んで尋ねるリカルドに、エディスは笑顔で頷いた。

「ええ。・・・『DAISY FIELD』、“ヒナギクの野原”にしようと思うの。」


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