DAISY FIELD
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「え!?」
「目をさまさないって・・・」
「ああ、そうだ。残念だが、エディスは意識不明の重体だ。エルフィート、そしてアルフェリア・・・お前
たちの“イタズラ”のせいでな。」
自分たちの“イタズラ”がもたらした予想以上の結果に、最初は作り笑いを浮かべていたエルフィートと
アルフェリアは真っ青になった。次いでそれぞれの名前を呼ばれ、びくりと身を竦ませる。
「これを見ろ。」
「これは・・・」
「これはな、エディスが倒れたときに壊れたものだ。お前たちは、エディスに毒を盛っただけじゃない・・・
その“思い出”も一緒に壊してしまったんだ!」
真っ二つになったリコーダーを突き付けられて、二人は呆然とした。
これが、エディスにとってただの楽器でないことは二人も知っていた。「今では、亡くしてしまった大事な
人たちを偲ぶ・・・たった一つのものなのよ」と、いつかエディスは笑いながら話してくれたものだった。
「イタズラ・・・ってのはな、笑って許されているうちに止めるもんだ。・・・この忠告は、どうやらちょっと
手遅れだったみたいだがな。」
「ど・・・どうしよう、アル・・・」
「やろうって言ったのはエルじゃない!」
大変なことをしてしまった。
うろたえて顔を見合わせた二人に対して、リカルドは厳しい表情のまま言葉を続ける。
「後のことは、エディスが自分で考えて決めるだろう。お前たちに対して甘かった・・・とこれからは厳しく
するのか、あるいは責任を取って竜術士を辞めるのか。・・・もちろんこれは、無事にエディスが回復
したらの話だがな。どうなるかはオレにも分からん・・・。」
「そんな・・・」
リカルドの容赦のない言葉に、いつしかエルフィートとアルフェリアは俯いてしまった。その目に、
たちまちのうちに後悔の涙が浮かんでいく。
「せいぜい、考えることだ。今、自分たちが何をするべきなのか・・・をな。」
「あ・・・。」
「まって・・・まってください!」
駆け寄ろうとした二人の前で、リカルドは勢いよく玄関のドアを閉めた。
*
「だから、いい加減にしておけと言っただろう!」
泣きじゃくるエルフィートとアルフェリアに向かって、ジークリートは容赦なく怒声を浴びせた。その
傍らには、無表情のテラが黙って立っている。
その後、一目だけでもエディスに会えないものかと家の裏手に回った二人だったが、その願いは結局
果たされなかった。見目も憚らず大声で泣き出した二人に、その様子を見るに見かねたジークリートが
家の裏口から姿を見せたのだった。
「だってぇ・・・こんな、こと・・・に、なるなんて・・・」
「ねぇジーク・・・あた・・・したち、どうしたら・・・」
「知らん! そもそも、これは自業自得だろう。」
冷たくそっぽを向くジークリート。・・・再び大声で泣き出した二人に声をかけたのは、テラだった。
「・・・ねえ、エル・・・アル。聞いて。」
「・・・?」
「あなたたちの家の近くに、楽器をなおしてくれる人がいるんだって。リカルドから聞いたことがあるん
だけど・・・知ってる?」
テラのこの言葉に、泣きじゃくっていた二人は顔を見合わせた。
「そこへいったら、エディスさんの楽器・・・なおしてもらえないかな。」
「うん・・・。エディスも、そんなことを言ってた気がするけど・・・。」
「でも、あたしたち・・・その場所を知らないの。」
「じゃあ、みんなで探しにいこうよ。みんなでいけば、きっと見つかるよ。」
「・・・うん。うん!」
テラの提案に、エルフィートとアルフェリアは顔を輝かせた。
「テラ!! そんなやつら、助けてやることなんかない!!」
「リカルドがね、言ってたの。・・・『助けを求める者を、今までの行いで差別してはならない』って。」
「テラ・・・それとこれとは・・・」
違うだろう、と言いかけたジークリートは、テラの真っ直ぐな瞳に見つめられて言葉を失った。そう、
テラの場合はその言葉に「建前」や「打算」というものはない・・・いつも、それは心からのものなのだ。
「・・・仕方ない。」
二人の方を振り返ると、心底うんざりした表情を浮かべながらもジークリートは頷いて見せたのだった。
「場所はぼくが知ってる。気は進まないけど、連れてってやる。」
「そうだ、ジークは地竜だもんね。・・・地図がなくてもまよわないよね!」
「ただし、条件がある。今後は、二度とこんな“イタズラ”をしないって誓えるなら・・・」
「ジーク、それ、草だよ。エルとアルはあっち。」
「え!? あ・・・お前ら、今笑ったな!?」
腕組みをして格好を付けていたジークリートは、テラの突っ込みに真っ赤になった。
ジークリートは幼い頃から目が悪かった。師匠であるリュディアによると「毎晩暗いところで本ばかり
読んでいたからだ」ということらしいが・・・このとき、エルフィートとアルフェリアにどんな顔をされたの
かがよく見えなかったのは、彼にとって幸運だったと言えるだろう。
「とっ・・・とにかく! ぼくはテラに頼まれて嫌々案内するんだからな! そのことを忘れるなよ!!」
「・・・はぁーい。」
「ちぇっ、分かったよ。」
「・・・ジーク。」
「何だよ!」
「ありがと。」
「・・・〜〜〜!!」
渋々頷く双子。赤くなっていたジークリートは、背後からかけられた声にぶっきら棒に返事をし・・・
次いで、テラに日頃滅多に見せない笑顔を向けられて益々赤くなった。
「さあ、そうと決まったらすぐにも出発だ。目的地はコーセルテルの北東の端だから、行って帰って
くるだけで一日かかる。」
「ええー、そんなに!?」
「何か文句があるのか?」
「・・・いや、ないけど。」
「いいだろう。・・・さあ、行こう。」
こうして、そこはかとない不安と未知の場所への好奇心を胸に、子竜だけの一行四人は足取りも軽く
その場を後にした。リカルドたち竜術士がそのことに気が付いたのは、実にその一時間も後のこと
だったのだ。