Christmas Greetings〜ジークのクリスマス〜    2     

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「ただ今戻りました。」

自宅に帰り着いたジークリートは、頭や肩の上にうっすらと降り積もった雪を玄関で払いながら、家の
奥に向かって声をかけた。もちろん、返事はない。
台所の様子が、家を出る前と変わっていないことを確かめる。・・・どうやら、リュディアはまだ起き出して
きてはいないようだった。

(やれやれ・・・)

小さく肩を竦めたジークリートは、抱えていた薬の包みからその一回分を取り出すと、水を入れた
コップと共にそれを小さなお盆に載せた。
リュディアの寝室は二階にあった。お盆を持ったジークリートは寝室のドアをノックし、中に向かって声を
かけた。

「師匠、薬を貰ってきました。・・・入りますよ。」

しばらく待っても返事がないことを確認し、ジークリートはゆっくりとドアを開けた。
案の定、リュディアはまだベッドの中にいた。トレードマークであるバンダナもつけず、僅かに乱れた
短い髪がその頬にかかっている。無防備なその寝顔は、年齢以上に彼女を若く見せていた。

「師匠、大丈夫ですか。・・・ほら、薬を貰ってきましたよ。起きられますか?」
「う・・・がぁ・・・」

仮にも妙齢の女性が、ベッドで漏らすにはあまりに場違いな呟きである。苦笑したジークリートの前で
薄目を開けたリュディアは、身震いすると布団を頭まで被ってしまった。

「寒い・・・。ジーク・・・なんとかしてくれよ・・・」
「何を言ってるんです。私は火竜術を使えないんですから、師匠ご自身が何とかされないことには・・・」
「ダメだ・・・もう、動けない・・・」
「で、冬眠でもなさるおつもりですか? ・・・私が布団を取り上げるのと、どちらがよろしいですか。」
「う・・・」

ジークリートの本気とも冗談ともつかない脅しに、リュディアは渋々ベッドの上に起き上がった。そして、
ジークリートから手渡された薬をためつすがめつする。
生まれてから、その人生のほとんどを温暖なセルティーク海の上で過ごしてきたせいか、リュディアは
寒さが苦手だった。幸い火竜術の素質にも恵まれていたため、術道具の一つである火の黒灰を
使っての暖房で、家での生活は快適だったが・・・それも、本人が寝込んでしまっていてはどうしようも
ない。
薬の袋に指を突っ込み、それを舐めたリュディアが言葉通りの苦い顔になる。

「うげ・・・苦い・・・。・・・なぁジーク、薬は苦くないのにしてくれって頼んだだろ・・・」
「生憎、二日酔いの薬は苦いものしかないんだそうです。」

しれっとした顔で言い放つジークリート。

「なら、それはそれでよ・・・。果物のジュースかなんかないのか・・・?」
「やれやれ・・・いい歳をした大人が漏らす不平ではありませんね。それは、エディスさんがわざわざ
作ってくれた薬・・・」

ジークリートが言い終わらないうちに、リュディアはやおら薬を口に入れると、水と共に一気にそれを
飲み込んだ。・・・やはり苦かったのだろう、少し涙目になっている様子がなんともかわいらしい。
心の中で微笑んだジークリートは、居住まいを正すとリュディアに向き直った。

「時に師匠。一つ、ご相談があるのですが。」
「・・・な、なんだよ、改まって。」

薬の苦さに小さくむせたリュディアは、訝しげにジークリートの方を見た。・・・ジークリートがこうして必要
以上に改まった様子で話を始めた場合、最後には大抵(リュディアにとって)困ったことを言い出す
のが常だったからだ。

「実は、五日後にここでパーティを開きたいと思います。そこで、その許可をいただきたいのです。」
「パーティねえ・・・別にいいけどよ。・・・んで? 誰を呼ぶつもりなんだ?」
「エディスさん一家を、お呼びしようかと・・・」
「許可!!」

目を輝かせたリュディアは、ジークリートの台詞の途中で膝をばちんと打った。「一家」ということは、
あの木竜二人も漏れなくついてくる・・・という事実もどうやら眼中にない様子である。

「ありがとうございます。」
「ああ・・・そうだ。そのパーティの準備は、おまえに任せていいんだよな?」
「もちろんです。大体、師匠にお手伝いをお願いすると、ろくなことになりませんから。」
「うう・・・言ってくれるじゃねえか。」
「事実ですから。」

にこりともせず、ジークリートは容赦なく決め付けた。部屋を出かけ、入り口で立ち止まると肩越しに
リュディアに声をかける。

「では、師匠もそろそろ起きてくださいね。朝食を用意しておきますから。」
「あー? まだ八時過ぎじゃねえか。いいだろ、もうちょっとくらい・・・」

再び布団に潜り込もうとしていたリュディアに、ジークリートは氷のような声を浴びせた。

「いえ、もう八時です。・・・いいんですよ、師匠が今日一日食事なしでもよろしいと仰るのなら、
このまま寝ていていただいても。」

「・・・起きる。起きるから・・・」

こうして、げんなりした様子のリュディアは渋々ベッドから出ることになったのだった。
・・・いつもと変わらぬ、地竜術士の家の一コマである。


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