Christmas Greetings〜ジークのクリスマス〜      3   

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五日後も、朝から雪だった。

「邪魔です。居間ででもくつろいでいてください。」
「そうは言ってもよ・・・。何もやることがねえんじゃ、暇で仕方ねえんだよ。」

台所で“クリスマスパーティ”用の料理に余念のないジークリートは、今日に限って何だかんだと台所に
入り浸るリュディアをいい加減持て余していた。
もちろん、普段だったら手伝うの「て」の字も口にしないリュディアのことである。それがこうして自ら
手伝いを申し出るというのは、客が客だからとは言え良いことには違いなかった。・・・しかし、世の中
には「ありがた迷惑」という言葉も確かに存在するのである。
溜息をついたジークリートが、徐に外を指差した。

「そうですね。・・・では、外で体操でもされてはどうでしょうか。」
「外で体操だぁ!? この寒いのに、やってられっかよ!!」
「あのですね・・・師匠。この際ですから、はっきり申し上げます。」
「な・・・なんだよ。」

リュディアに向き直ったジークリートは、その瞳をひたと見据えると改まった調子で口を開いた。
身構えるリュディア。

「師匠の、お手伝いをしてくださるというお気持ちは大変嬉しいのですが・・・」
「お、おう。」
「あっちで鍋をひっくり返し、こっちで皿を割られ・・・という事態になると、ただでさえ忙しい私が今の
何倍も忙しくなるんです。・・・お願いですから、居間で大人しくしていてください。」
「・・・・・・。」

竜術士仲間の間でも、リュディアに対して面と向かって苦言を呈することのできる人物は限られていた。
否や、例え何か言うことはできても、リュディアがそれを素直に聞き入れることはまずないのだ。
もしかすると、ジークリートは現在のコーセルテルで、リュディアが素直に言うことを聞き入れる唯一の
相手かも知れなかった。

「いくら本当のことだって・・・そんなはっきり言わなくてもよ・・・」

肩を落としたリュディアが居間に戻るのを見届けると、ジークリートは料理を再開した。
もちろん、先程のジークリートの台詞にはある程度の誇張が入っている。リュディアが鍋をひっくり
返したり皿を割ったりするのは事実だったが、本当はリュディアと和気藹々と家事をするのがジーク
リートの夢だった。本来ならば喜んでその申し出を受けたいところなのだが、それをジークリートが
敢えてしなかったのは、止むに止まれぬ事情があったからだった。

(師匠・・・申し訳ありません)

心の中で頭を下げたジークリートは、束の間・・・台所にある窓から外の様子を眺めた。
今は、月の名前の通り一年で最も昼が短い時期だった。今さっき昼食を摂ったと思ったばかりなのに、
窓の外にはもう夕闇が迫っている。 パーティにお客が来るまで、そう時間はかからないだろう。準備に
残された時間も、あと僅かである。

(よし)

気合いを入れるように一つ頷いたジークリートは、腕まくりをすると再び鍋の方へと戻っていった。


  *


こうして、すっかり日も暮れた頃・・・この“クリスマスパーティ”に招待された三人がリュディアの家を
訪れた。

「へえ・・・。これが、リューの家・・・。」

玄関で、雪の付いた上掛けを払っていたエディスは、家の中の様子を感心したように眺めた。それは、
“お付き”の二人の木竜・・・エルフィートとアルフェリアも同様である。
リュディアの家は、独特の雰囲気を持っていた。
かつて送った船上での生活を懐かしんだリュディアが、そうした道具を集めてきては家の中に飾って
いるのである。海から遠いこのコーセルテルでは珍しい品物ばかりであり、当然ここからまだ出た
ことのない木竜たちに、その品物の名前や用途が分かるはずもなかった。・・・もっとも、これはジーク
リートにしても同様である。

「エディスさん、いらっしゃい。」

玄関で、物珍しそうに周囲を見回していた一向に、台所から出てきたジークリートが声をかけた。
もちろんこの場合、二人の木竜のことは意識して無視している。

「ああ、ジークくん。ふふ、それ・・・とってもよく似合ってるわよ。」
「ありがとうございます。では、奥へどうぞ。」
「おい、ジーク! 僕たちにも一言くらいあってもいいんじゃないか?」
「ほんと! ひどいわねえ、エル。」
「その“ひどいわねえ”は、そっくり日頃のお前たちに返すよ。」

わざとらしく肩を竦めてみせた木竜たちをやり込めると、たった今“よく似合う”と評されたエプロンを
外す。エディスの後から居間へと入ろうとしていたジークリートは、エルフィートにその裾を引かれて
立ち止まった。

「・・・何だ?」
「はいこれ。」
「これは?」
「クリスマスパーティにはシャンパンが付き物だろ。今日は、僕らの“特製”を持ってきたんだ。」
「“特製”か・・・。いや、何だか急に部屋の中が寒くなったような気がするな。」
「もう、ジークったら!」

いつも通りの“邪笑”を浮かべた木竜二人に囲まれて、ジークリートはぞっとしない表情を浮かべて
みせた。そんなジークリートに向かって、居間からエディスが笑いながら声をかけた。

「大丈夫よ、その中身はもう私が調べたから。安心して飲んでね。」
「でしたら、問題はありませんね。・・・おいエル、グラスを出すのを手伝え。」
「へいへい、分かったよ。」
「エディス! いきなりそれを言っちゃ、面白くないのに・・・」
「アル、うちの師匠に首を絞められるのとどっちが面白い?」
「・・・・・・。」

こちらもぞっとしない表情を浮かべて言葉を無くしたアルフェリアを尻目に、ジークリートはエルフィートを
従えて台所へと入っていった。
一方、居間で嬉々としてエディスを出迎えたリュディアは、エルフィートの何気ない一言にきょとんとした
表情を浮かべた。

「くりすます? なんだそれ?」
「あれ、ジークくんから聞いてないの?」
「いや。今、初めて聞いた言葉だぜ。」
「ふーん。・・・ジークくん、リューを驚かせるつもりなのかしら。」
「なあエディス。その・・・“くりすます”ってなんなんだよ。」
「ふふふ。まあ、焦らないで・・・今に分かるから。」
「けどよ・・・」
「お待たせしました。」

頬を膨らませたリュディアが尚も言い募ろうとしたとき・・・ジークリートが、人数分のグラスと件の
シャンパンのボトルをお盆に載せて運んできた。後からは、これも料理の皿を両手に持った木竜
兄妹が続く。

「・・・では、まず最初に乾杯しましょう。・・・いいですか?」

ジークリートの音頭で、一同は一斉にグラスを合わせた。

「乾杯。」
「乾杯!」
「かんぱーい!」


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