夏の手紙        4 

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(あの子は昔から言葉が足りな過ぎなのよね・・・)

ロアのとんでもない発言を聞いたテラはくすっと笑った。一事が万事こんな感じなので、学生
時代は彼女の発言がよく物議を醸したものだった(この発言の真意は「私もテラのことを好き
だから、早く立ち直って欲しいな」くらいのもの)。恐らく、それはフィリックのおしゃべりっぷりと
合わせて今も変わらないのだろう。

(こうしてみると、みんなちっとも変わってないのね・・・)

何の不安もなかった学生時代のことを思い出して、遠い目になるテラ。ふと皿に視線を戻すと、
新たな影像が現れるところだった。それは、この十年会いたくて仕方がなかった最愛の竜術士の、
在りし日の面影。

「リカルド・・・!!」

思わず大声を上げるテラ。しかし、先ほどの影像と違い、こちらは動きもしなければその声も
聞こえては来なかった。

「・・・やっぱり、しゃべってはくれないのね。・・・当たり前よね、あなたはもう十年も前にこの世から
去ってしまったのだから・・・」

ほんの少し手を伸ばせば、掴めそうな所にその影像はあった。恐らく竜王即位式の時の正装の
スケッチを元にしたのだろう、その姿はテラが最後に見たものと一致していた。
しかし、その克明な影像は、逆にテラにとって悲しみを掻き立てられる以外の何物でもなかった。

「う・・・うぅ・・・」

ついに堪えきれなくなったテラは、テーブルに突っ伏すと泣き始めた。

(せめて、一声でいいから・・・彼の声が聞けたなら・・・!!)


  *


「・・・ったくよ、お前はいつだってそうだ。四六時中めそめそしやがって。」

不意に背後から聞こえてきた懐かしい声に、テラはがばっと跳ね起きた。

「・・・!?」
「おっと・・・振り向くのはなしだぜ? そういうの聞いたことあるだろ・・・振り向いたら最愛の人は
消えちまった、ってやつ。」
「リカルド・・・リカルドなの!?」
「おうよ、ご名答。久しぶりだな、テラ。」
「でも・・・どうして、どうして今になって!! わたし、ずっと待って・・・!!」

ぽん、と肩に置かれた手の温もりを感じ、テラはそれ以上言葉を発することができなくなった。
そんなテラの様子を眺めてか、背後ではため息の気配が一つ。

「・・・だからだよ。」
「・・・え?」
「考えてもみろよ、悲しみでずんどこ沈んじまってるお前の前にオレが現れてたら、お前はどう
してた? きっと『わたしも連れて行って!』って心中希望か、『あなたと一緒ならもう何もいら
ない』っつー自殺願望に辿り着くのがオチだろ。違うか?」
「わ・・・わたしは別に・・・」
「ほら、地竜の眼鏡君がお前に散々言ってたじゃねーか。『死別した竜術士の幽霊が竜に見えない
訳』ってのをよ。オレ、お前を見てて思わず納得しちまったぜ。」
「・・・・・・。」

うなだれた所を、くしゃ、と髪を乱される。

「いーかテラ、一回だけ言うからよーく聞いてろよ。
お前がなぜ竜王に選ばれたか。それはな、お前が火竜らしからぬ性格をしていたからだ。里では
色々と言われただろうけどな、結局はみんながお前のまわりに集まって来たろ? 術力だけとれば、
火竜の中にも・・・また、他種族の竜の中にも適任者はいたろうな。けどな、竜王は術力だけじゃ
ダメなんだ・・・そういう部分もなくっちゃな。世界の半分以上を治めていくには、それが大事なんだ。
テラ・・・今、みんながお前を必要としてる。戻って手を貸してやってくれ・・・それが、かつて竜術士
だったオレの、最後の願いだ。」
「・・・・・・。」
「ほら、またそうやって泣かないでくれよ・・・。」
「でも・・・だって・・・」
「オレだってな、そりゃあ死にたくなんかなかったさ。でもな、卵からずーっと面倒を見てきたお前が
いるからこそ、安心して逝けるのさ。」
「・・・リカルド。あなた、寂しくないの?」

背後で肩を竦める気配があった。竜王の竜術士リカルドの、得意のポーズ。

「何言ってやがる、寂しくないわけないだろ? でもな、もうこれは過ぎちまったこと・・・そうさ、
後戻りはできないのさ。お前こそ、次の竜王の竜術士に惚れちまわないか心配だぜ。結構
お前好みの可愛い子だったじゃねーか。」
「もう・・・! こんな時までそんなこと言って!」

泣笑いの表情になるテラ。そう言えば、久しくこんな風に話のできる相手もいなかったっけ、と
今さらながら気が付く。再び口を開こうとしたテラは、不意に後ろから抱きしめられた。

「・・・オレの一番の願い、話したことあったろ。竜たちの平和な世界。それを今実現できるのは、
竜王であるテラ・・・お前なんだ。頼むよ・・・オレの願い、叶えてくれよな。」
「わたし・・・あなたとならどこまでも行けると信じてたのよ?」
「ごめんな・・・。その約束は、来世に持ち越し・・・ってことにさせてくれないか?」
「・・・リカルド!!」
「愛してるよ、テラ・・・」

ここまで来て、耐え切れなくなったテラはついに後を振り向いた。だが、そこに期待していた彼の
姿はなく、ただ薄暗い自分の部屋が目に入っただけだった。


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