ROUND TRIP(前編)
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「・・・なんでえ、オレの酒が飲めねえってのか!?」
「いや、そういうわけじゃ・・・じゃあ、一杯だけ。」
「よーし、そう来なくっちゃ!」
夕食の席。カランにお約束通りの台詞で凄まれたラスカは、おずおずと自らのコップを相手に向かって
差し出した。そのコップになみなみと黄金色の液体を注ぐカラン。
「オレが初めて“料理”に成功した記念なんだからな、パーッとやってくれ!」
「・・・ねえカランさん、あれ何のお酒なの?」
「あああれか? あれは『火酒』って言うのさ。」
コップの中のいかにも「強そう」な酒と睨めっこをしているラスカを横目で見ながら、フランカがカランに
尋ねる。
「『火酒』?」
「火竜の里では、あれが飲めねえと一人前には見てもらえねえんだぜ。」
「そ・・・そういうものなの?」
「おうよ! さ、ラスカさん・・・ぐいっといってくれ!」
「う・・・うん。」
ここまで来たら後には引けない。意を決したラスカは一気に杯をあおり・・・数秒後、そしてそのまま
椅子ごと床にひっくり返った。
「わーっ、師匠!」
「師匠、大丈夫ですか!?」
「う・・・? あ・・・、らいりょーぶ・・・」
顔を赤くしたラスカは、駆け寄ったライモンドに向かって倒れたままひらひらと手を振って見せた。その
不自然な笑顔といい、呂律が回っていない所といい・・・全然大丈夫に見えない。
「ああもう! 師匠ってば、お酒ダメなのに・・・」
「何? そうだったのか? 姉貴はザルだったろ、だからてっきり・・・」
「どうしよう、師匠・・・また寝込んだりしたらどうしてくれるのよ!」
「最初に言ってくれよ・・・」
フランカに詰め寄られ、ばつが悪そうに頭に手をやるカラン。一方、ライモンドに助け起こされた
ラスカは、立ち上がるとそのままよろよろと玄関に向かった。
「・・・師匠?」
「ちょっと・・・よい・・・を、さましてくる・・・」
*
「ふー・・・。」
家の外によろけながら出たラスカは、近くの土手に寝転んだ。季節はもうすぐ冬・・・夜風は冷たく、
火照った頬にはちょうどよかった。
思えば、飲めない酒に酔っ払って・・・という経験も久しぶりだった。昔、まだ父や姉と一緒に暮らして
いた頃はただ嫌なだけだったが、今はちょっとだけ懐かしく思えた。
(・・・?)
ぼんやりと満月のコーセルテルを眺めていたラスカは、ふと背後に人の気配を感じ、そちらに目を
やった。月明かりに照らされて立っていたのは一人の冬の精霊・・・相手は軽く頭を下げると、ラスカに
向かってこう切り出した。
「風竜術士ラスカ殿とお見受けする。私は冬軍・凩隊のナナミと申す者。・・・我等が隊の長、ソヨゴの
言葉をお伝えに参った。」
「たいちょーの・・・ソヨゴ・・・さん?」
呂律の回っていないラスカの様子に、ナナミと名乗った女冬軍は僅かに眉を顰めた。
「ソヨゴは、コーセルテル最強の術士であると噂の貴殿との勝負を望んでいる。・・・受けていただける
か?」
「しょーぶ? ・・・なんの?」
「決まっているでしょ、竜術による勝負よ。・・・もう、大丈夫なのかしらこの竜術士・・・。」
要領を得ないラスカの返答に、それまでの堅苦しい物言いを止め、ナナミは首を傾げた。
「あ、りゅーじゅつのねー。・・・うん、いいよ〜。」
「・・・あなた、意味が分かって言ってるの? 本当に大丈夫?」
「ほんとほんと。・・・もうばっちり。」
「・・・・・・。」
ラスカのあまりの軽いノリに、思わずジト目になるナナミ。だが、任務は任務だ・・・一応の回答を
得られた今、後はこれを隊長に報告しなければならない。
「分かったわ、隊長には『受けてくれた』った伝えておくから。」
「あ・・・」
「・・・?」
何かを言いかけたラスカに、立ち去ろうとしていたナナミは振り返った。
「たいちょーさんに、よろしく〜。」
「・・・・・・。」
完全にふやけ切った笑顔でナナミに手を振るラスカ。ナナミは苦笑いして肩を竦めると、北へ向かって
飛び去った。