ROUND TRIP(前編)      3     

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というわけで、翌日のラスカには二日酔いの他に、もう一つ“頭痛の種”ができることになったのだった。

「俺が冬軍・凩隊のソヨゴだ。・・・風竜術士ラスカよ、いざ尋常に勝負!!」

部下を引き連れてやってきたソヨゴと名乗る冬の精霊は、二日酔いに痛む頭をおして応対に出た
ラスカの前でふんぞり返った。

「・・・どうした、怖気づいたか?」
「・・・あのー、一ついいでしょうか?」
「何だ? 言っておくが、手加減はしないぞ?」
「・・・勝負って、一体何のことです?」
「あ?」

ソヨゴの顎がかくんと下がる。

「貴様、真面目に言ってるのか?」
「そのつもりですが・・・。」
「おいナナミ、お前・・・確かにこいつから約束を取り付けたんだろうな?」
「はい、そうです! ・・・ちょっとあんた、確かに昨日の夜『勝負を受ける』って言ってたじゃない!!
今更しらばっくれるつもり!?」
「昨日の夜? ・・・ああ、昨日はその・・・酔っ払ってて記憶がないんです。」

心底申し訳なさそうに謝るラスカ。その様子を見ていたソヨゴは、握り締めた拳をわなわなと震わせた。

「酔ってだと? ・・・な、何てふざけた奴だ!!」
「ですから・・・この話は、できればなかったことにしていただけるとありがたいんですが・・・。何か、他の
方法で・・・」
「問答無用だ、覚悟しろ!!」
「あの、ちょっと・・・困ります!」
「おう、面白え!!」

逆上したソヨゴがまさにラスカに襲いかからんとしたその時、威勢の良い声が両者の動きを止める。
声の主は、もちろん火竜のカランであった。
カランはだん、と地面に右足を踏み出すと上空にいる冬軍を睨みつけた。・・・実に年季の入った
惚れ惚れするような動作であった。

「そこまでフカすからには、さぞかし自信があるんだろうね!? ああ!?」
「な・・・何だお前は!?」
「オレはカラン、今はラスカさんにお世話になってるもんだ。」
「じゃあ、お前が術勝負の相手になるってのか!?」

びしい、と効果音が聞こえて来そうな勢いでソヨゴを指差したカランは、今度は堂々と啖呵をきった。

「術勝負だと? ふん、ケツの穴の小さいことを抜かしてるんじゃねえよ。大体こういう勝負事ってのは
な、相手の土俵で戦って勝ってこそ意味があるもんだ。喧嘩を売るんなら、それなりのやり方ってのが
あるんだよ!」
「な・・・何だと!?」
「ラスカさん、言ってやんなよ。『俺の得意な飛翔術で勝負だ!』ってさ!!」
「えぇ!?」

自分が最も「苦手な術」の名前を出されてうろたえるラスカ。その様子を不審そうに見ていたカランは、
傍らのライモンドにそっと耳打ちした。

「なんでえ、風竜にとっちゃ空を飛ぶのは歩くのと同じようなもんなんだろ? 術士もそうだよな?」
「そりゃあ・・・まあ、普通はそうだけど。でも、師匠の・・・」
「じゃあいいじゃねえか。おーし決まり決まり!! オイ、そこのへっぽこ冬軍!」
「何だと!! もう一度言ってみろ!!」

自分の全く与り知らないところでどんどん話が進んでいるのにラスカが気が付いた時には、全ては
手遅れだった。カランに「へっぽこ」呼ばわりされた冬軍の面々は当然の如くヒートアップしており、
最早「できるだけ穏便に済ませたい」というラスカの願いは叶いそうもなかった。

「勝負は・・・そうだな、大陸一周でどっちが早くここに戻ってこれるか、なんてどうだ?」
「フン、墓穴を掘ったな。これでも、俺様は冬軍では『韋駄天のソヨゴ』と呼ばれてるんだぞ? そんな
勝負、ウスノロ風竜術士に負けると思うか!?」
「言ってくれるじゃねえか。ラスカさん、いいよな?」
「ちょっと待って! まだ僕は受けるとは・・・みんなもそんな勝負は・・・」

“いやだよね?”と、一縷の望みを抱いて自らの預かる風竜たちの方を振り返るラスカ。だが、今度は
ソヨゴの「ウスノロ」発言が効いたらしく、ライモンド以下の風竜たちはすっかり闘志に満ちた顔つきに
なっていた。

「何だって! 師匠のことをバカにしたな!!」
「許せない! このへなちょこ冬軍!!」
「あんぽんたん!!」
「何だと、このチビどもが!!」
「よし、もっと言え!!」

冬軍に対して次々に反撃するライモンドたち、それをここぞとばかりに煽るカラン。言うだけ言った後、
風竜たちは真剣な表情で揃ってラスカの方に向き直った。

「師匠、僕らも参加させてください!」
「えぇ!? みんな、そんな簡単に・・・」
「おう、じゃリレーだな。あっちも人数がいるし、ちょうどいいだろ。」
「ケッ、吠え面かくなよ!」
「後で泣いても知らないからな!」
「ふん、それはこっちのセリフさ! おととい来やがれってんだ!!」

飛び去る冬軍の面々。そして、盛大に中指を立ててみせるカランと、すっかりやる気の風竜たち。
その様子を見ていたラスカは、やがて頭を抱えると力尽きたようにその場にしゃがみ込んだ。

(あああぁぁぁ・・・)

かくして、ラスカの「最も苦手な術」による冬軍代表との勝負がなし崩し的に決定されたのであった・・・。


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