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September


 −プロローグ−

「では、行ってくる。留守を頼むぞ・・・メオ、アグリナ。」
「おう、まかせとけって。」
「オヤジこそ、恥ずかしいからまた迷ったりしないでよ。」

支度を整えた火竜術士のイフロフは、玄関先で振り返ると自らの補佐竜と娘に声をかけた。この場合、
その順番に突っ込みを入れるのはもちろんご法度である。

「では、イフロフさん・・・行きましょうか。」
「うむ。・・・ミリュウ、待たせたな。」

外で待っていた風竜術士のミリュウに向かって鷹揚に頷くイフロフ。やがて、その風竜術で二人の姿は
コーセルテルを囲む山々の彼方へと消え去った。年に一度、イフロフは亡き妻フィナの墓参りのために
コーセルテルを出る・・・今日はちょうどその日だったのだ。
総出でイフロフを見送った火竜一家がぞろぞろと居間へと戻る。その途中で、二番竜であるリタが
アグリナの服の裾を引っ張った。そちらを振り向くアグリナ。

「ねえ、アグリナ姉ちゃん・・・」
「何、リタ?」
「姉ちゃんのお母さんって、どんな人だったの?」
「あれ? オヤジから聞いてないの?」
「おいおい、オヤジの性格を考えろよ。自分からそういうことを話すタマか?」
「そりゃ、そうだけど・・・」

メオに突っ込まれたアグリナは、僅かに頬を膨らませた。そんなアグリナの様子に気が付いているのか
いないのか、メオはからかうような調子で言葉を継いだ。

「そうだよなー、気になるよな。あのオヤジと、一体どんな人が結婚したらこんな娘が生まれるの
かってな!」
「ちょっとメオ、それってどういう意味よ!! 大体、あんた母さんと会ったことあるの!?」
「直接はないぜ。けどな、先代の補佐から色々と話は聞いてるんだ・・・例えば、」

ここでメオはアグリナの方を見るとにやりとした。

「オヤジのプロポーズの言葉、とかな。」
「えー!?」
「うそ・・・オヤジからだったの? プロポーズしたの。」
「そうらしいぜ。・・・どうだ、気になるだろ。」
「ふ・・・ふんっ!! 別に・・・」

と、一人強がって見せるアグリナ。だが、リタ以下の火竜たちは興味津々といった様子でメオの周りを
取り囲んだ。本当は自分も気になる話題なのだ・・・焦りを隠しきれない様子のアグリナに向かって、
メオは意地の悪い笑みを浮かべてみせた。

「ね、メオ兄・・・その話聞かせてよ!」
「オレはいいぜ。・・・おいアグリナ、お前はどうすんだ?」
「・・・しょうがないわね、聞いてあげるわよ!!」
「けっ、素直じゃねえヤツだな。・・・まあいい、実はな・・・」


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