ENDLESS LOVE  1       

ENDLESS LOVE


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「・・・うん、もう大丈夫だろう。」

地竜術士の家、地竜術士ランバルスの居室。
丁寧にランバルスの足を診察していた木竜術士のカディオは、頷くとその膝頭をポンと叩き、笑顔で
立ち上がった。その言葉に、居合わせた一堂の表情がぱあっと明るくなる。

「ってことは・・・」
「ああ、もう一人で出歩いても大丈夫だろう。骨もしっかりしたようだしな。」
「ランバルスさん、よかったですね!」
「おめでとうございます!」
「おう、ありがとうよ。」

水竜のリリック、次いで木竜のノイから祝福の言葉を受け、ランバルスが破顔する。
過日の遺跡探索でランバルスが折った両足の診察・治療は、木竜術士であるカディオの仕事だった。
最近は容態もすっかり安定しており、ここで満を持しての“全快宣言”・・・というわけだった。

「いやー、それを聞いて安心したぜ。ずっとベッドに縛り付けられてるのも、いい加減飽きあきしてた
ところだったからな。」
「ま、そうだろうな。でも、もう無茶はするなよ?」
「分かってるって。よし、そうと決まれば早速・・・」
「いけません。」

腰掛けていたベッドから嬉々として立ち上がろうとしたランバルスは、そこで氷のような声を浴びせ
られ、驚いて顔を上げた。声の主は、もちろんランバルスの補佐竜、地竜のユイシィである。
ユイシィは、ランバルスを睨むようにして言葉を続ける。

「師匠は長い間ベッドで過ごされていたのですから、体が弱っているはずです。まずは、少しずつ歩く
ところから始めるべきではないのですか?」
「しかしだな、ユイシィ・・・」
「言うまでもありませんが、遺跡の一人歩きなどもっての他です。」

ユイシィにダメを押され、ランバルスはうっと言葉に詰まった。
もちろん、ランバルスが日頃から出歩いているのは、コーセルテルの危険な場所の調査や侵入者の
有無を見回るためで、本人の道楽ではない。それがいつも単身であるのも、子竜たちを危険に巻き
込まないようにするためであり・・・決して文字通りに「意味もなく歩き回っている」のではないことは、
竜術士なら誰でも知っていた。

「でもまあ、確かに・・・リハビリはした方がいいだろうな。そうだな、外に出るんなら・・・誰かに
付き添いを頼んでな。」

険悪になりかかったその場の雰囲気を察し、カディオが助け舟を入れる。

「ランバルス、どこか行きたいところはないのか?」
「行きたいところ・・・なあ。」

考える表情になったランバルスは、しばらくして顔を上げた。

「寝てる間、考えてたんだがな。・・・久しぶりに、墓参りに行きたいと思ってたんだ。」
「墓参りって・・・あの、奥さんと娘さんの?」
「そうだ。考えてみれば、もう随分行ってやってなかったし・・・」
「師匠!!」

カディオの言葉に頷いたランバルスに向かって、横合いからユイシィが食ってかかる。

「一体何を言い出すんですか! お墓は、コーセルテルの外にあるんでしょう!?」
「そりゃまあ、そうだが・・・」
「ただでも体が万全じゃないというのに! ・・・外に行くなんて、論外です!!」
「そうかなあ。ぼくは、行ってくればいいと思うけど。」

横からリリックにこう言われ、ユイシィは今度は凄い勢いでそちらを振り向いた。

「リリック!? あなた、何を言い出すの!! ・・・もし、師匠の身に何かあったら・・・」
「いや、だからさ。ユイシィも一緒に行ってくればいいじゃないか。」
「え・・・私が!?」

リリックの意外な提案に、ユイシィは目を丸くした。ランバルスに目配せをしたリリックは、にこにこ
しながら言葉を継いだ。

「そうだよ。カディオさんも、“付き添い”が必要だって言ってたじゃないか。それこそ、地竜なら適任
だよね。それに、自分でついていけば、無事かなって気を揉むこともないだろうしさ。」
「そんな・・・」
「ミリュウさんに頼んで送り迎えをしてもらえば、体の負担も少なくてすむしさ。・・・二人で行って
おいでよ。」

師匠と、二人で・・・。
リリックの言葉に思わず赤くなってしまったユイシィは、それを何とか隠そうとさらに言い募った。

「で・・・でもっ、師匠と私が家を空けてしまったら・・・」
「ロービィたちはぼくの家に来ればいいじゃないか。家も近いんだし、ちょうどいいよ。」
「・・・・・・。」
「あ、そうだ! どうせなら、お弁当持って一日ゆっくりしておいでよ・・・こっちのことは心配しないでさ。」

(師匠と・・・二人きりで・・・一日ずっと・・・)

すっかり赤くなって俯いたユイシィの様子を見て、カディオはにやりとした。

「どうやら、決まりだな。よし、ミリュウには帰りに俺から言っておく。明日の朝、ここに来てもらうと
するか。」
「ああ、頼んだぞ。」
「ちょっ・・・私は、まだ何も・・・!」
「ユイシィ・・・嫌か?」
「・・・・・・。」

嫌なはずがない。喜んでついて行きたいに決まっている。
こうして、ランバルスにじっと見つめられたユイシィは、ゆっくりと・・・しかし、はっきりと頷いたのだった。


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