ENDLESS LOVE    2     

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翌朝。
ランバルスを始めとした地竜一家の面々は、風竜術士のミリュウやその補佐竜のジェンと家の前に
立っていた。もちろん、ユイシィは特製のお弁当の入ったバスケットを大事そうに抱えている。
既に日は昇り、辺りはすっかり明るくなっていた。街道の方に目をやっていたランバルスに、ミリュウが
声をかける。

「ランバルスさん・・・そろそろ行きませんか?」
「悪いが、もうちょっと待ってくれないか?」
「何か忘れ物ですか? それとも、誰かを待っているとか。」
「ああ。いや、実は昨日リリックにな・・・」
「おはようございます〜!」

ランバルスがミリュウの方を振り向いたとき、当のリリックとエレが姿を見せた。
急いで来たからなのだろう・・・軽く息を弾ませていたリリックは、勢揃いしていた一行に向かって軽く
頭を下げた。次いでランバルスに駆け寄ると、その手に小さな袋を押し付ける。

「遅くなってすいません。・・・はい、これ。」
「何だこりゃ。これが、昨日言ってたやつか?」
「そうです。ぼくからの、ささやかな差し入れです。」
「?」

訝しげな顔をしたランバルスに、リリックが何事か耳打ちする。驚いた表情を浮かべたランバルスは、
頭を掻いた。

「参ったな。・・・すっかりお見通しだったのか?」
「うまく行くことを祈ってます。・・・じゃあ、気を付けて!」
「くれぐれも、下の子たちをよろしくお願いします。」
「ええ、分かったわ。心配しないで。」
「では、行きましょう。ジェンさん、よろしく!」
「はい師匠!」

エレとリリックに向かって深く頭を下げるユイシィ。こうして、手を振ったエレの目の前から、四人は北の
空に向かって飛び去っていった。

「それじゃ、ロービィ、リド、クレット・・・私たちも行きましょうか。」
『はい。』

揃って行儀よく返事をする地竜たち。笑顔で振り向いたエレだったが、その目飛び込んできたのは
地面にへたり込んでいるリリックの姿だった。
慌ててその傍へ駆け寄ると、エレはリリックを抱き起こした。

「リリック! どうしたの・・・?」
「あはは・・・なんか、腰が抜けちゃって・・・」
「そう言えば、昨日は随分と夜更かししてたわね。・・・どう? 一人で歩けそう?」
「うーん・・・」
「もう、しょうがないわね。」

何とか立ち上がったものの、ふらふらしているリリックの様子にエレは苦笑を浮かべた。
その場に膝をつくと、リリックを背負う。こうしたことは、本来ならば地竜であるロービィたちの方が
適任なのだが、流石にそれはリリックにみっともない思いをさせると思ったからだ。
歩き始めたエレは、何を思ったのかくすっと笑った。

「久しぶりね・・・こうして、あなたを背負って帰るのも。」
「え?」
「忘れたの? 昔は、よく泣いているあなたを背負って帰ったじゃない。」
「そ・・・そうだっけ?」
「そうよ。それが、いつの間にかこんなに大きくなって・・・。」
「その割には、エレってば・・・別に重そうにも見えないけど。」
「・・・それは、どういう意味?」

肩越しにエレに睨まれたリリックは、ここで慌てて口を押さえたのだが・・・もちろん後の祭りだった。

「ねえリリック。・・・二人で出かけるように勧めたの、あなたでしょう?」

しばらくの間無言で歩を進めていたエレは、やがて再び口を開いた。

「あ・・・分かった?」
「もちろんよ。他の人に勧められでもしなければ、あのユイシィがランバルスと二人で・・・しかも
コーセルテルの外へ出かけるなんて言い出さないでしょう。」
「たまには、いいと思ってさ。」
「・・・ランバルスに渡したものも、それに関係あるのね?」
「うん。」

リリックが頷いたのを最後に、会話はまたしばらくの間途絶えた。地竜たちは、無駄口一つ利かずに
大人しくついてくる。
やがて、おずおずと口を開いたのはリリックの方だった。

「何を・・・って、聞かないの?」
「え?」
「ランバルスさんに、渡したもの。」
「ふふ。きっと、あの二人にとって必要なものだったんでしょう? そうした心遣いができるところは、
リリック・・・あなたって、本当に大人だと思うわ。」
「エレ・・・。」

(そう。私よりも、余程ね・・・)

リリックが、コーセルテルの少女竜たちの中でも、特にユイシィに好意を持っていることをエレは知って
いた。だからこそ、ユイシィのために何かをしてあげたいという気持ちは人一倍なのだろうが・・・それが
“恋敵”に塩を送ることになってしまうこともあるのだ。
複雑なのよね・・・と、リリックの心中を察したエレはくすっと笑った。

「家に戻ったら、今日は一日ゆっくり休みなさい。」
「え、でも・・・」
「たまには、私が家のことをやるのも悪くないでしょう?」

(だから心配なんじゃないか・・・)

こうして、またしても余計なことを口にしそうになったリリックは、慌てて小さく首を振ると笑顔で頷いたの
だった。

「・・・うん。ありがとう。」


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