ENDLESS LOVE        4 

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晩秋の穏やかな午後。時に笑い、時にしんみりしながらランバルスの話は続いた。
ウィンシーダとの出会いの経緯。初めて二人で行った遺跡での顛末。一人娘ヴィアンカが生まれた
ときの騒動と、その後の自身の親バカぶり等々。・・・そして、ウィンシーダとの別れ。
・・・今まで断片的に話してもらっていたことが、一本に繋がる。
聞けば聞くほど二人は似合いの夫婦だったと思え、若くしてウィンシーダと引き裂かれなければなら
なかったランバルスのことを思うと、ユイシィの胸は痛むのだった。
しかし、振り返ってよく考えてみれば・・・ユイシィが今ここにいるのは全て、ウィンシーダが死んだため
なのである。
もし、ウィンシーダが生きていたなら。ランバルスはコーセルテルを目指すことはなかっただろうし、
そうなれば竜術士になることもなかっただろう。ユイシィは違う竜術士に預けられ、もしかしたら全然
違う育ち方をしたかも知れないのだ。

やがて話は途絶えがちになり、いつしか二人は並んで空を見上げていた。心地よい風が二人の頬を
撫でて通り過ぎていく。
はためくフードを軽く押さえたユイシィは、視線を僅かに下げた。
今日、ここで・・・はっきり分かったことがある。
師匠の心の中には、まだウィンシーダさんがいる。そして、そこには誰も入り込める余地はないのだ。

(当たり前じゃないの。第一、私よりも一緒に過ごした時間が長いんだし・・・)

それでも、心のどこかには「私だって・・・」という切ない想いがある。
そんなユイシィの複雑な心境を察したのだろうか。・・・長い沈黙を破ったのは、ランバルスの方だった。

「ユイシィ。・・・今、何を考えてる?」
「え・・・?」
「・・・そんな顔をしてれば、何か悩んでることくらいすぐ分かるぞ。」
「別に、そんな・・・」

俯くユイシィ。ランバルスは溜息をつくと小さく肩を竦めた。

「確かにな、お前が思っているように、俺の心の中にはまだあいつがいる。コーセルテルに来ることに
なったのも・・・あいつの“夢”だった、というのが大きいしな。」
「・・・・・・。」
「あいつのことは、忘れることはできないだろうな。・・・きっと、一生・・・」
「そう、ですよね・・・」

恐れていたことをはっきりとランバルスに口にされ、ユイシィは思わず涙ぐみそうになった。しかし、次に
ランバルスが口にした言葉は、ユイシィの予想とは大きく異なるものだった。

「だがな。俺は、お前のことが心配なんだ。」
「私・・・のことが?」
「俺はな。お前が思っているほど、鈍い男じゃないぞ。・・・お前がどんな気持ちでいるのかも、分かって
いるつもりだ。」
「師匠・・・」

だったら、どうして。
ユイシィが唇を噛み締めたのに気付いたランバルスは、その頭を撫でた。

「だがな、俺は人間で、お前は長寿を誇る竜だ。・・・間違いなく、俺のほうが先に死ぬ。」
「そんなこと・・・関係ありません!」
「本当か? ・・・俺が死んだ後、お前はどうするんだ? 俺のことを忘れて、次の人生を歩むことが
できると言い切れるか?」
「それは・・・」

そこまで考えたことはなかった。
当然と言えば当然である。出逢ったときに、まず相手が死んだ後のことを考えることなど普通はあり
得ない。・・・そう、普通の場合はだ。

「お前が、俺のことを真剣に想っていてくれればくれるほど・・・俺がいなくなった後、お前は苦しむことに
なるだろう。」
「・・・・・・。」
「それが、俺には怖いんだ。死んだ後も、お前を俺に縛り付けてしまうことがな。」

師匠の言っていることは、何となく分かる。自分に向かって言われたことでなければ、ここでユイシィも
頷いたかも知れない。
しかし、よく考えればこれは「拒絶」なのだ。“お前のことを考えているからこそ”という言葉が、尚更に
悲しい。
なぜ、師匠と私は違う種族として生まれてきてしまったのだろう。
俯いていたユイシィは、ここでついに堪えきれなくなって泣き出した。涙が頬を伝い、服の上に落ちて
小さな染みを作っていく。

(結局、私と師匠は・・・)

「だから・・・」
「・・・・・・。」
「結論を出すのは、先に延ばさないか?」
「・・・え?」

涙で濡れた顔を上げたユイシィに向かって、ランバルスは笑った。

「俺はまだ三十五だ。まだ数十年は頑張れる・・・どうするか決めるのは、ロービィたちが一人前に
なってからだって、遅くはないだろう?」

気休めだ。人間の寿命はせいぜい六十年足らず。それより早くこの世を去ってしまうことだってある
のだ・・・今、自分たちの目の前にある墓標は、そのことを如実に物語っている。
ユイシィの考えていることが分かったのだろう。ランバルスはにっと笑うとユイシィの肩をポンと叩いた。

「大丈夫、頑張れるさ。何たって・・・」

ランバルスの次の台詞を聞いたユイシィは、耳まで真っ赤になった。

「お前のためなんだからな・・・ユイシィ。」
「・・・!!」

(それって・・・それって、つまり・・・)

赤くなったまま俯いたユイシィは、小さく拳を握り締めた。・・・最早、どんな顔をしていいのかも分から
ない。そんなユイシィの様子を微笑ましげに眺めていたランバルスは、懐から小さな箱を取り出した。
地竜術士の家の応接間に長年置かれていたオルゴール。長い間、「妻の形見のようなものだ」と聞か
されていたユイシィだったが、その詳しい事情についてはついさっき聞いたばかりだった。


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