ENDLESS LOVE      3   

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墓標は、崩れかけた遺跡の傍らにあった。
大小二つの、名前も彫られていない墓石。それが、赤く鮮やかに紅葉した木の陰に寄り添うように
立っている。
“夕方に、また迎えに来ます”と言ったミリュウたちと別れてから歩くこと三十分。およそ人の訪れそうも
ない場所ではあったが、墓石は苔むすこともなく・・・そして、その元にはまだ新しい花が供えられて
いた。名もない野の花のようだが、それがかえってここには相応しく思える。

(一体、誰が・・・)

「・・・ああ。」

不思議そうにこの光景を見つめていたユイシィに向かって、ランバルスは頷いた。

「・・・こんなところに墓があって、驚いたか?」
「あ、いえ・・・。」
「この遺跡はな、俺とあいつが・・・初めて出逢った場所なのさ。」

ここで、ランバルスはふっと懐かしそうな顔をした。その横顔を見たユイシィは、不意に胸を抉られる
ような気分に襲われた。
師匠が、コーセルテルで・・・自分の前では決して見せなかった顔。
自分たちに余計な心配をかけないためなのだと、頭では分かっている。それでも、こうしてランバルスの
無防備な表情を目の当たりにすると、ユイシィは胸に湧き上がるやりきれなさを抑えることができ
なかった。

「もちろん、俺たちが住んでいたところには立派な墓がある。だが、死んだら・・・いや、死んでも
ここで・・・というのがあいつの遺言だったしな。」
「・・・この花は?」
「ああ。多分・・・」

花にちらりと目をやったランバルスは、困ったような嬉しいような複雑な笑みを浮かべた。

「あいつは、みんなの人気者だったからな・・・。」

墓標の前に跪いたランバルスは、そのまま長い間目をつぶっていた。そして、時々墓標に向かって
話しかけては、小さく笑ったり頷いたりしている。
ランバルスの後ろで、ユイシィも黙祷を捧げた。しかし、その心中は複雑だった。
ランバルスは開けっぴろげで陽気な性格だと、他の竜術士の誰もが言う。しかし、昔から・・・その心の
奥底にあるものには、決して触れさせようとしない雰囲気があった。ふとした弾みに見せる表情や、
言葉の端々で・・・最後の部分で壁を作っている。これは、コーセルテルでランバルスと共に一番多くの
時間を過ごしてきたユイシィが、常日頃から感じてきたことだった。
他人に弱みを見せない。それは、恐らく師匠なりの周囲への気遣いだったのだろう。しかし、それをどう
受け取るかは人によって違う。
もっと信頼されて・・・師匠の全てを打ち明けてもらえるようになりたい。弱音も、愚痴も・・・そして思い出
話も。そのための強さは、もう手に入れることができたと思っていた。・・・師匠から見た自分は、まだ
力不足なのだろうか。
涙が出そうになるのを必死に堪え、固く目を閉じる。次にユイシィが目を開いたとき、ランバルスは
ちょうど立ち上がるところだった。
振り向いたランバルスが、傍らの木の根元を指さす。

「ユイシィ、どこか・・・そうだ、その辺りにでも座らないか。」
「あ・・・はい。」

二人は、並んで腰を下ろすと木に寄りかかった。
隣に座ったユイシィに向かって、ランバルスは改まった様子で口を開いた。

「お前には、シーダやヴィアンカのことはほとんど話してなかったよな。・・・今日は、その話をゆっくり
しようと思ってな。」
「・・・・・・。」
「いつか、しようと思ってたんだ。お前と、二人っきりのときにな。・・・聞いてくれるか?」
「・・・はい。」

ちょっと、胸がドキドキする。
ランバルスにじっと見つめられたユイシィは、真面目な顔で頷いた。


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