新しい仲間    2       

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ここまで言ったアズサは、二人の前で頭を抱えた。

「しかも、問題はこれだけではないのだ。」
「まだあるんですか・・・。」
「歌会には茶が付き物。当然、茶菓子も一緒に振舞われるわけだが・・・今回は、その菓子がどうも
間に合わんようなのだ。」
「まさか、それもここの担当だなんてことは・・・」
「いや、それはない。あれは持ち回りだからな、今回はセルティークの担当だ。どうも慣れんことゆえ
手際が悪かったらしくてな、イチイも団長職を降りると言っていたが・・・例え切腹してもらったところで、
肝心の菓子はないのだからな!」

傍らに置かれていた自らの文机を盛大に蹴飛ばすと、アズサは頭を掻きむしった。

「ああ・・・どうすればよいのだ。このままでは、冬軍全体が春軍の笑いものにされてしまう!
私には・・・それはとても耐えられん!!」


右往左往するアズサの様子を実に楽しそうに眺めていたセンジュは、やがてその顔に不穏な笑いを
浮かべた。

「団長。オレ、今団長が言った問題全てを解決できる究極の人材の心当たりがあるんですけど。」
「何!! 本当か!?」
「ええ。ほら、ここに。」
「・・・え?」

センジュに後ろから両肩に手を置かれ、ミズキは目をぱちくりさせた。・・・もっとも、それはアズサも同じ
だったらしい。

「まさか・・・ミズキ殿か?」
「そう、そのまさか。・・・ミズキの店はケーキ屋です。その腕は、団長だってご存知ですよね。」
「う・・・うむ。それはそうだが・・・流石に、茶の席にあのケーキを出す訳には・・・」
「もちろん、作れるのはケーキだけじゃありません。・・・“菓子”と名の付くものなら、世界中のものを
作れるようになろうと日夜研鑽に励んでいるんですから。」
「何と! そうだったのか・・・」
「ちょ・・・ちょっとセンジュ、あんまり大袈裟に言わないでよ! ・・・ちょっと趣味で色々やってるだけ
じゃない!」

慌てて後ろを振り向いたミズキは、小声でセンジュに食ってかかった。
確かに世界の菓子に興味があるのは事実だったし、日夜レシピを仕入れてきてはそれを試作し、
センジュに試食をしてもらってもいる。しかし、あくまでそれは本業であるケーキ作りに何かのヒントを
得られないかと思っての一種の“お遊び”で、センジュの言うような“研鑽”に当たるものでないことは
当のミズキが一番よく分かっていた。
ミズキの懇願には目もくれず、にやにやしながらセンジュはさらに言い募った。

「何より、ミズキは歌詠みが抜群にうまいんです。オレも、時々手解きを受けてるんですから。」
「何だと!? ミズキ殿・・・それは真のことか!?」
「あ、ああ・・・その、・・・はい。学校時代は、そういう部活動をしていたので・・・」
「ふむ・・・そうか。そういうことなら、他の全てに優先する!」

顔を輝かせたアズサは、憑かれたような目で一歩、二歩とミズキに詰め寄った。

「ミズキ殿、無理を承知で頼みたい。歌会への出席と、茶菓子の件・・・引き受けてはもらえない
だろうか。」
「え!? そんな・・・無理ですよ! お菓子の話はともかく、私はただの人間で・・・精霊さんたちの
会合に出るなんて、そんな・・・」
「最早、頼れるのはそなたしかおらんのだ! 頼む、冬軍を救うと思って・・・!」
「はぁ・・・その・・・」
「よかろう、承諾してもらえた暁には、私のできる範囲で・・・どんな望みでも叶えようでは
ないか!」

「・・・・・・。」

ここまで言われて断れるはずもない。何より、冬軍の一員であるセンジュは、自らの大事な伴侶でも
ある。その冬軍の危機なのだから、自分がそれを助けるのは当たり前のような気もする。
思わず両手を胸の前に小さく挙げる格好になっていたミズキは、こうして目を白黒させながらも頷く
ことになった。

「そうか・・・かたじけない!!」

心底ホッとした表情を浮かべたアズサは、着けていた雪の結晶を模ったペンダントを外すとミズキに
差し出した。

「早速だが、これを・・・。」
「あの・・・これは?」
「あまり時間がないので、手短に説明しよう。我々精霊は、自らの術力を蓄えておく形代をいつも身に
付けている。私の場合はこのペンダントだが、センジュの耳飾りもそのためのものだ。」

(知らなかった・・・)

確かに、センジュは右の耳にピアスをしていた。仮にも軍隊である冬軍でそんなものが許されるのか
疑わしく思っていたミズキだったが、その疑問が一つ解けたことになる。

「これをそなたが身に付けていれば、蓄えられた私の術力によって、他の精霊たちにもミズキ殿が
かなり高位の精霊のように感じられるはずだ。無論術を使うことはできんが、寒さを防ぐといった
効果もある。」
「あ、本当だ・・・寒くなくなった。」

アズサの言う通りだった。ペンダントを身に付けたミズキは防寒具を脱いでみたが、あの刺すような
寒さは襲ってこない。

「でも! この服装や、髪や目の色で・・・人間だってすぐにばれちゃうじゃないですか。」
「ふむ・・・。よし、服は私の軍服を着ればよかろう。髪と瞳の色の件は、残念ながらそのままという
ことになるが・・・そこはこちらに任せてもらおう。何とかごまかせると思う。」
「は・・・はい。」
「それから、菓子の件だが。・・・何か心当たりはあるのか?」
「あ・・・はい。ですけど、材料が手に入るかどうか。私のお店に行けばあるんですけど・・・」
「よし、そちらは引き受けた。冬軍一の俊足の部隊を動員しよう。」

頷いたアズサは、つかつかと居室の入り口へと近寄ると、外に向かって大声で怒鳴った。

「凩隊に緊急動員をかけろ! 冬軍の浮沈を懸けた重要な任務なのだ・・・責任は
私が取る!!」



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