新しい仲間        4   

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「ふう・・・。何とか、無事に終わったな。」

歌会を無事に乗り切り、その後の酒宴から早々に引き揚げてきたアズサとセンジュ、ミズキの三人は、
アズサの居室で疲れた顔を見合わせていた。“無礼講”になるや否や、その歌にいたく感動した出席者
たちによってミズキは十重二十重に取り囲まれる格好になり、シラカバの「ミズキも疲れているだろう
から」という口添えがなければ、恐らく酔い潰れるまで解放してもらえなかっただろう。

「今日は、ミズキ殿には本当に世話になった。礼の言葉も見付からん。」
「い・・・いえっ、そんな! こちらこそ、久しぶりにこういう機会に恵まれて、楽しかったですし・・・。」
「かたじけない。そう言ってもらえると、こちらも気が楽になる。」

ミズキに向かって頭を深々と下げたアズサは、ややあって言いにくそうに口を切った。

「実は・・・その、ミズキ殿に折り入って頼みがあるのだが。」
「私に・・・ですか?」
「ああ。その・・・何だ。・・・ミズキ殿は、冬軍に入る気がおありではないかな?」
「・・・はい?」

アズサの突拍子もない申し出に、ミズキは目をぱちくりさせた。

「あの・・・冗談ですよね?」
「いや、私は至って真面目に言っている。」
「でも・・・私が冬軍だっていうのは、今日限りの話だったんじゃ・・・」
「そうだ。いや、そのはずだった。」
「はずだった?」

首を傾げたミズキに向かって、アズサは苦り切った表情で説明を始めた。

「確かに、ミズキ殿が冬軍の一員であるというのは、今回限りの臨時の処置のつもりであった。しかし、
正直言って・・・あそこまでそなたの歌詠みが見事なものだとは思わなかったのだ。その・・・我々は
どうも、ああいった文雅の道に関してはあまり得手ではない。それもあって、ミズキ殿が殊更に
目立ってしまった・・・という格好なのだ。」

確かに、冬軍の面々の歌詠みはお世辞にも上手とは言えない代物だった。歌会でのアズサの
四苦八苦ぶりを思い出したミズキは、浮かびかけた笑いを必死になってかみ殺した。

「そして、あの茶菓子だ。こうした事情から、ミズキ殿は完全に冬軍の一員・・・それも、極めて印象深い
人物として認識されてしまっているのだ。それこそ、冬軍からも、春軍からもな。今更“あれは人間
でした”とは、とてもではないが言い出せる状況ではないのだ。」
「はあ・・・。」
「この歌会は、毎年夏と秋の二度、冬軍・春軍それぞれの都に相手を招待して行われるもの。今日の
春軍の反応を見ていれば、次回以降・・・春の都で行われる歌会に際して、ミズキ殿が名指しで招待
されるのは必定。断る理由も見付からんし・・・」
「・・・・・・。」

ここにきて、ようやくミズキにもアズサの言わんとすることが飲み込めてきた。要は「嘘から出た真」と
いうことらしい。

「無論、冬軍の一員としての軍務は一切負う事はない。ただ、歌会の際にはセンジュ共々、私の
配下としてそれに出席してくれればいいのだ。・・・どうだろうか。」
「・・・分かりました。」

別に、断る理由もない。少し考え、頷いたミズキに向かってアズサはホッとした表情を浮かべた。

「おお、そうか! 心より、礼を申す・・・」
「ただし。私の方からも、二つお願いがあります。」
「・・・うむ、そうであったな。それを言い出したのはこちらであった。何なりと言って欲しい。」
「ありがとうございます。一つは、歌会をこちらで開催するときのお菓子を・・・これからも私に作らせて
欲しいんです。」
「なんと・・・それならばこちらから頼みたいくらいだ。・・・して、もう一つは?」

遠慮がちにアズサを見るミズキ。首を傾げたアズサは、次の瞬間苦笑いを浮かべることになった。

「こちらで、歌詠みの勉強会を開きたいんです。今日、皆さんの詠まれた歌を聞いていましたが・・・
その、あれは・・・」
「うむ・・・皆まで言わんでよい。私にも、そなたが何を言いたいかは重々分かっている・・・。」
「こうしたものは、日頃から親しんでおくのが重要なんです。ですから・・・」

「センジュも、とんでもない相手を見付けたものだ・・・」とぼやいたアズサは、それでも生真面目な顔で
頷いた。

「承知した。この件、後程冬将軍に申し上げておこう。恐らく、問題なく認められるであろう。」
「ありがとうございます。」
「では、これを受け取ってくれるか。」

アズサが取り出したのは、一振りの短刀だった。

「これは・・・?」
「冬軍では、軍に入る際に将軍から直々に刀を授かるという儀礼がある。ミズキ殿に関しては“隠し玉”
扱いになってしまったため、今更それを行う訳には行くまい。」
「はあ・・・まあ、そうですよね。」
「別に、この刀を遣えるようになる必要はない。だが、あのペンダント共々できれば身に付けていて
もらいたい。そうすれば、他の冬軍の精霊たちに不審に思われることもないであろうしな。」
「分かりました。」

アズサの軍服を着たままだったミズキは、受け取った短刀を帯に挟んだ。センジュの前でくるりと身を
翻すと、笑顔で尋ねる。

「どうセンジュ、似合う?」
「ああ・・・恐ろしいくらいにな。」
「そう・・・良かった。これなら、私も冬軍に見えるかも。」
『・・・・・・。』

その無邪気な仕草に、アズサとセンジュは思わず顔を見合わせた。しばらくして、センジュがぽつりと
呟く。

「ねえ団長、どう思います?」
「ああ。・・・ミズキ殿がこのような性格で良かったと、私もしみじみと思う。」
「全くです・・・。」
「え? 何の話?」
「いや・・・。わかってないならいい。」

ひそひそと囁き交わすセンジュとアズサに向かって、ミズキはきょとんとした表情を浮かべた。
名目上とはいえ、ミズキはアズサ直属の「四天王」の一人ということになっている。その実際を知って
いるのはシラカバとアズサ、センジュの三人だけであり、これはその気になれば冬軍の中でかなりの
権力を行使できるということでもある。ミズキが、そのようなことを考えようともしない人間であった
ことは、冬軍の面々にとっては不幸中の幸いであった。


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