新しい仲間
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ぞっとしない表情を浮かべていたアズサは、ここで思い出したように膝を叩いた。
「そうだ・・・。この騒ぎに紛れてすっかり忘れていたが。」
「なんです団長、改まって。」
「センジュ・・・お前の任務についての吟味をせねばならんな。」
「吟味? 何のです?」
「惚けるな。・・・センジュ、今お前は我が軍の諜報員としてエクセールに潜入していることになっている。
無論、このことは上にも報告せねばならんから、それが公式の記録としても残っているのだ。」
「あー・・・そう言えば、そうでしたね。」
「あくまで建前だが、こうしてお前を冬の都に呼ぶのも、その進捗状況を聞くためということになって
いる。その報告をしてもらわねばな。」
ここまで言ったアズサは、何を思ったのかセンジュではなくミズキに向き直った。
「ミズキ殿。」
「はい。」
「今、幸せかな?」
「え・・・?」
「あ、団長! オレじゃなくてミズキに聞くなんて、卑怯ですよ!」
慌てるセンジュを尻目に、アズサはミズキの目をじっと覗き込んだ。
「センジュは冬の精霊だ。高位であるために様々な融通も利くであろうが、それでも種族の差というのは
大きいと思う。共に暮らすのに何かと苦労もあろう・・・辛くはないかな?」
吟味などと勿体を付けているが、アズサの目には純粋な気遣いの色があった。それに気付いた
ミズキはにっこりと笑った。
「それは、人であっても一緒です。私は今・・・とても幸せです。」
「後悔は、しておらんのだな?」
「・・・はい!」
「そうか・・・。」
満足そうに頷いたアズサは、胸を撫で下ろしているセンジュに向かってにやりと笑ってみせた。
「特に、問題はないようだな。将軍にも、後程そうご報告しておこう。・・・今回は、こちらには長く
いるのか?」
「あ、はい。一週間くらいはこちらにお世話になろうと思っています。前回はあっという間に帰ることに
なってしまいましたから、まだここのことは全然知らなくて。」
「そうだろうな。センジュ、しっかりミズキ殿を案内するんだぞ。」
「へいへい。元からそのつもりでしたよ。」
肩を竦めるセンジュ。
「よし・・・。二人とも今日は疲れたであろうから、もう帰るとよいだろう。」
「はい。それでは、失礼します。」
「じゃあ、団長。酒宴に戻っても、あまり飲みすぎちゃダメですよ? また刃傷沙汰なんてのはシャレに
なりませんからね。」
「抜かせ。お前こそ、ミズキ殿の尻に敷かれないようせいぜい気を付けることだ。」
「だ・・・団長さん!」
「まさか、団長じゃあるまいし・・・っと! それじゃ、お先に!」
突き出されたアズサの拳をひらりとかわすと、センジュは頬を染めたミズキの肩を抱くようにして
アズサの居室を出ていった。その後姿を見送っていたアズサは、しばらくの間寂しそうな表情で
その場に立ち尽くしていた。
先程、アズサがミズキに投げかけた言葉。あれは、自らが常日頃から抱いている疑問でもあった。
遠い昔、自らにも人間の知り合いがいた。アズサが今この団長職にあるのも、自分を導いてくれた
その人間のお蔭だった。
もし、あの戦がなければ。自分も、彼と二人で暮らすことができただろうか。そう、今のセンジュと
ミズキのように・・・。
(・・・・・・)
背後の止まり木からじっとアズサのことを見ていたラナイが、不意に甲高い鳴き声を上げた。我に
返ったアズサは、振り返ると微笑んだ。
「そうだな。ラナイ、お前のことをすっかり忘れていた・・・。」
ミズキが持ってきたケーキの包みを開き、その角を細かくほぐしてやる。待ちかねたようにそれを
つつき始めたラナイの様子を眺めながら、アズサは小さな声で呟いたのだった。
「そうだな・・・。きっと、な・・・」
はしがき
たまにはアズサにも青くなってもらわないとね、ということで書いたこの話(邪笑)。あれ、この流れ
だと・・・ミズキが春の都に行く話も書かないとダメですかね?(笑)