新しい仲間      3     

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こうして、数時間の泥縄の後、表面上は何事もなく歌会が始まった。
アズサの軍服を借り、冬軍側の末席に肩を小さくして座っていたミズキは居たたまれない気持ちで
一杯だった。・・・皆の視線が痛い。
アズサは「何とかごまかす」と言っていたが、やはりどこからどう見ても自分は人間にしか見えない。
冬軍の軍服を着ているために、その不自然さが益々際立つ格好になってしまっている。
事実、冬軍・春軍双方の出席者からは、先程から不審そうな視線がミズキに集中していた。いつ、
出席者の誰かから難癖を付けられるのか・・・内心ではビクビクしているミズキを他所に、粛々と
出席者の紹介が始まった。

「・・・同リュネル寒気団、リグレス守護ミズキ。」

一体、自分はどんな紹介をされるのだろう。まさか正直に言うわけにも行かないだろうし・・・。
顔を伏せ、鬱々とそんなことを考えていたミズキは、この予想外の紹介に弾かれたように顔を上げた。

(リ・・・リグレスの守護!? ・・・って、一体どういう意味・・・!?)

ざわっと座がどよめいた。事情を知っているのは冬将軍であるシラカバにアズサとセンジュくらいの
ものなのだ。ここで、本来ならば「そやつは人間のはずではないか」といった声が上がるはずだった。
やがて、列席している冬の精霊たちからの呟きがミズキの許にも届き始めた。ミズキの予想とは
裏腹に、それは次のようなものであった。

「リグレスと言えば・・・別段氷雪地でも何でもない。そんな場所で一年中過ごせるとは・・・」
「アズサ団長配下の四天王に一人空きがあるとは聞いていたが・・・こんな隠し玉がいたとはな。」
「隠密行動とあれば、それも頷ける。ここで姿を見せたのは、リグレス支配に目処が立った証で
あろうかな。」

一方、春軍側からの反応も似たようなものだった。

「人間が混ざっていておかしいとは思っていたが・・・あれは、人間の町で暮らすための偽装
だったのか。」
「あそこまで人間になりきるとは、見事なものね。術力もかなりのものだし・・・きっと、変化の力に
優れた者なんだわ。」

(え・・・えええええ!?)

結局、この過分に好意的な解釈によって、ミズキは一躍「冬軍の中でも指折りの有力者」という
とんでもない勘違いをされることになったのである。
そして、ミズキに対する両軍からの評価は、その後・・・歌会が進行するにつれて一層深まることに
なった。もちろん、その理由の一つはミズキの詠んだ歌の出来栄えがあまりに際立っていたからで
ある。
出席者は両軍ともそもそも“軍人”であるため、素養はともかく普段からは歌詠みに親しんでいる者は
少ないのが現状だった。春軍の方がまだマシとはいえ、その傾向には大きな差はない。そんな中に
あっては、長年の歌詠みの経験を持つミズキの歌が他の追随を許さなかったのは、けだし当然
だった。
そして、振舞われた茶菓子である。
確かに、アズサが言ったように、ミズキの得意分野であるケーキは茶菓子としては出しにくい。そもそも
準備に時間がかかるし、微妙な火加減を行えるオーブンも必要である。しかし、そんなものは冬の
精霊の本拠地であるこの北都では望むべくもない。
だが、茶菓子の中には“葛”というものがある。そのことを思い出したミズキの脳裏にまず浮かんだ
のが、この夏に新製品として発表すべく試作を重ねていた“ゼリー”であった。これならば時間も
かからず、また材料や道具も店に揃えられている。それを取ってくるだけで良かったのだ。
かくして、歌会の中休みには茶菓子としてこのゼリーが供されることになった。当然のごとく、これを
口にしたことのある者はセンジュ以外にはおらず、中に色とりどりの果物を封じ込めた特製の
ゼリーは「まるで宝石のようだ」と両陣営からの絶賛を受けることになったのである。
かくしてこの歌会が終わる頃には、「冬軍のミズキ」という名は歌会に列席していた両軍の有力者
たちに強烈な印象を残すことになってしまったのである。


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