風邪をひいた日〜ジークの場合〜          5   

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「ふーん。みんな、いいヤツじゃねえか。」

ルクレティア、クレオ、テラ、そしてアトレーシアにノエル。結局、揃ってこの家で夕食を摂ることになった
“見舞い客”の面々を玄関まで見送り、リュディアは戻ってきたところだった。

「ごく一部、例外もいたみたいですが。」

部屋の窓から、小さくなっていく一行の後姿を見送っていたリュディアは、ジークリートの容赦ない
一言に振り向いた。

「ああ・・・アレか。ま、いいんじゃねえのか? ・・・無視されるよりは何倍もマシだろ。」
「・・・そうでしょうか?」
「ああ。お前にも、今にわかる。」

(師匠・・・?)

訝しげなジークリートの視線に気付いたのだろう。ベッドの端に腰かけたリュディアが、ふっと笑みを
浮かべた。

「もし、本当にあいつらがお前のことをどうでもいいと思ってるならさ。・・・わざわざ、この寒い中あんな
“差し入れ”を持ってきたりはしねえだろ。」
「それはまあ、そうですが・・・。」
「ま、中身はご愛嬌だろ。その気持ちを汲んでやれよ。」
「・・・・・・。」

そうは言われても、やはり納得はできなかった。あの木竜兄妹の“差し入れ”には、間違いなく好意
よりも悪意の方が多く含まれていたはずだ。・・・しかし、ジークリートは特に反論はしなかった。
それよりも、先程リュディアが浮かべた寂しげな笑顔の方が気になったからだ。
もしかしたら、リュディアにも昔・・・そのようなことがあったのだろうか。友人だと信じていた誰かに、
いざという時に助けてもらえなかったという経験が・・・。

(・・・・・・)

僅かに目を伏せたジークリートの様子に、一つ頷いたリュディアはベッドから立ち上がった。

「病人に夜更かしさせてもいけねえな。じゃ、アタシもそろそろ退散するわ・・・。」
「あ、師匠。」
「ん?」

弾かれたように顔を上げたジークリートは、思わずリュディアを呼び止めた。

「昼間、長い時間寝てしまったので・・・実は、目が冴えてしまって眠れないんです。良ければその・・・」
「なんだ?」
「何か、話をしてくれませんか。そう・・・海の話など。」

嘘だった。
昼間あれだけ眠ったにもかかわらず、消耗したジークリートの身体は更なる睡眠を欲していた。実際、
少し気を抜くとまた眠り込んでしまいそうなのだ。
しかし、それでも。このままリュディアを部屋へ帰すことはできなかった。
沢山の“見舞い客”に混じって、一人だけ手持ち無沙汰な様子でいたリュディア。
もともと苦手な料理はルクレティアとクレオが、掃除を初めとする家事全般はアトレーシアが片付けて
くれた。特技の一つである火竜術についても、火竜であるテラが来てくれたためにその腕を揮う
必要はなく・・・結局、リュディアがジークリートのためにできたことは、朝方エディスに薬を頼みにいった
ことくらいだった。
大事な補佐竜の危機に、ほとんど何もできなかったという無力感。立ち去ろうとするリュディアを
ジークリートが呼び止めたのは、何気ない仕草にそうしたものを感じ取ったからだった。
そんなジークリートの真意に気付いたのだろうか。じっとジークリートのことを見つめていた
リュディアは、微笑むと小さく肩を竦めた。

「お前は、優しいやつだな。」
「師匠・・・変なことを言わないでください。蕁麻疹が出そうです。」
「わかった、わかった。よし、何から話そうか?」
「そうですね・・・」

こうして、地竜術士の家の夜は静かに更けていった。
やがて、話の途中でとろとろと眠り込んでしまったジークリートの布団を直し、リュディアが静かに部屋を
後にしたのは、もう日が変わろうとする頃だった。




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