世界の果てまで      3     

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「それにしても・・・凄い槍の腕前だったな。」
「何じゃ、女が槍を使ってはいかんという法でもあるのか?」
「・・・そんなこと、誰も言ってないだろう?」
「いいや、おぬしの顔に書いてあるわ! 『女のくせになんて奴だ』とな!」
「・・・・・・。」

冬枯れた木々の立ち並ぶ街道を、二人は北へ向かって歩いていた。返ってきた喧嘩腰の返答に、
当代の風竜王ロッタルクは思わず苦笑いした。
結局あの後、レティシアと名乗った女は行き先を含め一切を明らかにしようとしなかった。かえって
興味をそそられたロッタルクは、しばらく行動を共にすることを決めたのだが、会話からして一事が
万事この調子。どうやらこのレティシアという女は、その純真な外見とは裏腹にかなり捻じ曲がった
性格の持ち主らしかった。

「昔な、一時期だけ槍を習わされたこともあったんだけどな・・・単純そうに見えてあれって難しいん
だよな。」
「・・・まさか、それで褒めているつもりではなかろうな?」
「いや、実はそのまさか。普通の短槍でもそうだったんだから、そんなごつい槍だと扱うのがさぞかし
大変なんだろう?」

レティシアの持っている槍にちらりと目をやるロッタルク。

「ふん、どうってことはない。おぬしが軟弱だっただけではないのか?」
「・・・その槍、もしかしてエリオットの国宝じゃないのか? どうしてあんたが持ってるんだ?」
「・・・!?」

神槍アストライア。隣国の王族に代々伝わる、正義と平等を司る女神の名を冠したその槍は「天」
「地」「人」を象徴する3枚の刃を備え、抜群の破壊力を誇るのだという。だが、その重量と特殊な
形状から、自在に使いこなせる者は久しく失われているとロッタルクは聞いていた。
ロッタルクの何気ない問いに動揺を見せたレティシアは、硬い表情になるとただ一言、

「・・・おぬしには関係ないことじゃ。」

と答えただけだった。

「そうか。」
「・・・ところで、いつまでついて来るつもりじゃ?」

気まずい沈黙を振り払おうとするかのように、先に立って歩いていたレティシアが振り向きざまに訊く。

「いつまで?」
「言っておくが、わらわには護衛など必要ない・・・それは、おぬしも良く分かっているはずじゃ。
そしてアルカード、わらわとおぬしは赤の他人。共におらねばならぬ理由はないはずじゃ。」
「純粋に、あんたが心配なんだ・・・じゃダメか?」
「な・・・な、なん・・・」

意外にも真剣な瞳でそう告げられ、レティシアは耳まで真っ赤になった。

(へえ・・・純情なところあるじゃん)

心の中でにやりとするロッタルク。それを表には出さないようにして、言葉を続ける。

「確かに、護衛はいらないかも知れないな。けどな、あんたを見てると何だか危なっかしくて、こっちの
方が気が気じゃないんだよ。」
「そんな、勝手な・・・!」
「だから、もうしばらく・・・そうだなぁ、国境を越えるまでは一緒に・・・」
「ようお二人さん、お熱いねー!!」

ふいにかけられた声に、ハッとして周囲を見回す二人。そこは、街道沿いに点在する集落の
一つの、中央広場とでも言うべき場所だった。周りを取り囲む村の建物に住民の姿は見えな
かったが、代わりに魔獣族の兵士たちが武器を構え、そこかしこに陣取っていた。


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